「味の文化から、ミミズと土壌の研究まで
      〜 みんな、つながって(・・・・・いる!?)〜 (その二 )」
春木 雅寛 (はるき まさひろ)
( 北海道大学大学院地球環境科学院 助教授 )

 1.貧栄養の白い火山灰から森林土壌へ
 前回の(その1)で、自然とくに森林や植物を対象にしていた私の研究も何々だけという研究ではなく、陸域、海域、大気の環境や魚、農作物、発酵食品など食べ物のことや土壌中の動物、微生物による分解も含めて広く対象にするようなものにしていけるし、そのための知識を広げなければやっていけない、と考えるようになった。ということはデパートに売っていないような、つまり他の人がやっていないことということになる。火山の植生回復(写真1、2を参照)と土壌の理化学性の関係を調べていくうちに、土壌生成をミミズを通して見ざるをえなくなった。
昭和新山 ドロノキ優占林
【写真1】
誕生して60年たった昭和新山(有珠郡洞爺湖町字壮瞥−旧壮瞥−そうべつ−町)
(有珠山の外輪山から2001年6月2日撮影)

【写真2】
1977-78年の爆発により上木(ドロノキなど)は壊滅したが、その時地上に落下した枝から更新したドロノキ優占林(樹高は)形成された。樹高は18mに達する。(2006年5月)

 2.ミミズのこと
  さて、ミミズをキーワードにして最近のホームページをのぞいてみると、小中学生の研究のテーマになっていたり、はたまた、昆虫のえさとして、飼い方が出ていたりさまざまである。また、ハンバーグのつなぎの材料として、牛肉で問題になった某超大国から輸入し続けているという話もある。日本では古くから乾燥粉末を煎じたものは解熱効果があり、今でも漢方薬店で売られているという。日本におけるミミズの研究は古くは東北大学で専門にされておられた畑井新喜司(はたいしんきし)先生やそのお弟子さんによるミミズの体内生理を含め顕微鏡観察によるずいぶん詳細な研究がなされていた。近年ではヤマトヒメミミズを用いた器官再生や種々の体内酵素について調べている方たちもいる。しかし、野外(フィールド)では分類がなかなか難しく、若い研究者専門家があまり育っていないのが現状である。このように野外にでかける専門家は数少ないが、それらは著名な方々であり、文献を通して大いに勉強させていただいた。

さて、ミミズの歴史は、中村方子(まさこ)さんの「ミミズのいる地球」(中央公論社刊1996)に詳しい。氏は世界各地にミミズを追い、いくつもの本を書かれている。それによれば、ミミズは古生代のはじめオルドビス紀に化石があり4億年以上の歴史を持つこと、中生代のジュラ紀 (205-135百万年)のゴンドワナ大陸分裂・移動により、世界における現在のような大きな分類上の分布がほぼ決まったことがわかる。

 世界のミミズは約3,000種といわれるが、日本には100種あまりが知られる。陸上生活のミミズは私の住む北海道ではフトミミズ科で10数種、魚釣りに使うような小さなツリミミズ科では数種である。ミミズは動物界では環形動物という仲間に属し、輪切りにしたような数10ないし100以上の体節をもつ。海にすむゴカイなどは毛が多く多毛類に属するのに対し毛が少ないので貧毛類に属している。各体節の中央部に剛毛という堅い毛がありこれが周りを取り巻いているものがペリケータ(ペリはperi-で周囲の意で、ケータはcata-で接頭語だが上から下を巡っての意があるから、周囲を取り巻いての意味になる)でミミズの種類のほとんどを占めるフトミミズ科のミミズはこのタイプに入る。日本や東南アジア、豪州などに分布し、人類よりも起源の古い自生種からなるといわれる。日本では北から南までごく普通にみられる、太いミミズがこれにあたり、低地から高標高の山地まで広く分布し、古来から日本の森林や農業において土壌と森林植物・作物生態系の維持発展に大いに貢献したとみられる。「大地の母」という呼び名にふさわしく、写真3,4のように地中から地表面に団粒構造をした土壌を排出したりするのである。中でも一般的にみられるヒトツモンミミズは体長15-20cmになる(渡辺1995)。
昭和新山 ドロノキ優占林
【写真3】
林床をみるとA0層の下は、ポロポロとした土壌で、良好な団粒構造ができている。(2006年5月)

【写真4】
フトミミズ属のミミズは堅い地表面をものともせず、春から秋にかけて各所にキャストを盛り上げる。地中での働きが想像される。


これに対してわずかに2本ずつ数対の毛しか見られないのがルンブリックス(lumbricus)型でこれには魚釣りで使うツリミミズ科が入る。lumbricusミミズというラテン語から生まれ、lumbricoidでミミズ状のという意味になる。こちらはヨーロッパなどに分布していて、元来のミミズはこれだけであったのであろう。ツリミミズ科のミミズは、人間の移動往来などで日本など各地に入ってきたらしいが、もう店子のような遠慮顔はしていない。また、豪州やニュージーランドの草地の土壌理化学性の改良に導入され、かなりの成功をおさめた。
 
  3.土壌と火山
土壌だが、爆発がおさまって植生(しょくせい:その土地を覆っている植物の総体をいう言葉)が回復し有珠山や昭和新山でみられるようになった森林土壌は農地土壌の原型といってもいい、一般的な土壌である。土壌はJenny(1941)によれば気候、生物、地形、母材、時間などの関数であり、短時間の間にも動植物の遺体を若干含んだ私たちが目にする海岸の砂も広義の土壌である。

 私たちは火山ではまず、堆積して間もない火山噴出物上での森林の形成、土壌の理化学性の発達と土壌生成、これに土壌動物(代表選手としてミミズ)、有機物の分解活動を主に行う土壌微生物がどのように関与しているのかを明らかにしたいと考えた。そして、やっていくうちに世界の火山では毎月、数年に亘ってこのようなことを調べた例がないことがわかってきた。農学部で林学科にいた頃の学生時代は、付属演習林などで森林調査をよくやっていたが、土壌の理化学性を調べるのは大変だから夏期だけの1回でいい、位に考えていたが、火山で土壌の化学性を実際調べてみると毎月値が異なり、はっきりした季節変化はあるものの、毎年全く同じようなピークを示すわけでもないことがわかってきた。この点ではアラスカのタナナ(Tanana)川の沖積地の森林で、アラスカ大学の人たちが数年、毎月調べた報告は今でも座右の書の一つで、これを読んで勇気づけられた。しかし、そこには残念ながらミミズの記述はなかったが・・・。

4.ミミズによる火山での土壌生成
私の研究室でミミズの研究で博士号を取得した山口高志さんという学生さんと有珠山の森林の土壌がかなりミミズの活動によって出来上がったことを証明したいと1997年頃から取り組んだ。実際の森林土壌の他、室内と有珠山や昭和新山で培養箱を用いて火山灰と落ち葉、ミミズを住まわせ、それらを分析することにより土壌生成の過程がかなり解き明かされ、彼はミミズで学位を取得した(おそらく日本では20年ぶり!?)。有珠山や昭和新山でミミズ(その多くはフトミミズ科フトミミズ属のヒトツモンミミズ)によって生成されること、それが森林の地床で既に出来上がっていた土壌とほとんど同じ粒径組成、団粒径構造をもち、養分組成も類似していること、噴火年代の異なる場所を対象にして森林の発達につれて土壌の理化学性も発達していくことを調べた。さらにそれを応用的にとらえ、ミミズと落葉と火山灰を室内に持ち込んでの大量の培養-土壌生成試験でも、これらを裏付けることが出来た。このようにして、ミミズの関与による早期の森林と土壌の生成は、半分は実証出来たと考えている。ミミズの室内培養は、当初はなかなかうまくいかず多くのミミズ(環境耐性の強いツリミミズ科シマミミズ属のシマミミズを使用したが・・・。)を死なせてしまったが、2ヶ月ほどいろいろやり方を変えて、地表の落葉が「発酵(・・・・)」を経て土壌化していくという至極当たり前の原理に思い至ってやっとうまくいくようになった。

ミミズの果たす役割や活動の詳細は図1、2の通りで、口から食べた土壌、有機物などは腸を通っていくが、砂嚢(さのう)では粗い粒径の砂礫がより細粒化される。体内から出される種々の分泌液により、くっついていき体外へ出された排出物(Castキャストと呼ばれる)は、その後も何度かミミズに食べられながら、粒子間の結合が進み、団粒構造を作っていく(写真3,4)。こうして大小の直径をもつ団粒構造が発達し、土壌中の有効水分量が多くなること、ミミズ体内の酵素の働きにより、植物が利用出来る形のリン酸生成がなされ増加していくこと、ミミズの活動により土壌微生物の活動が活発化すること、ミミズが作った団粒構造は水に溶けて流出しやすい硝酸態窒素(植物の根はアンモニア態窒素あるいは硝酸態窒素のイオンの形で成長に必要な窒素養分を根から取り込む。硝化細菌はアンモニア態窒素を硝酸態窒素に変えていく。)を出来るだけ長期に貯留する働きがある。これらのことはさまざまな理化学性の測定を通してよく理解出来るようになった。(注:でも、日本の大学で土壌の分析をいろいろ出来るところは本当に数少ないのですよ。植物も土壌微生物もミミズのような土壌動物も水も気象もいろいろ調査測定分析できて、総合的に数字の意味がわかる学生さんになって欲しいと常々話しているところです。)

【図1】 ミミズの果たす役割
Nは窒素、Pリンで肥料の三要素の二つに大きく関与する。

【図2】ミミズの働きの詳細(高橋・春木2000より)
ミミズの活動は土壌の理化学性を高める。



5.廃棄物処理による土壌生成という一石二鳥をねらって

(1)石炭灰を使ったら・・・
火山灰はセメントの材料にも使われるが、下界では大部分が廃棄物扱いである。何とかならないかと思っていたところ、ミミズのことを研究したいと研究室に何人か女子学生さんが入ってきた。火山灰と落葉と土壌微生物(落葉や火山灰などに既に多数生息している。)+ミミズで土壌が出来たのだから、今度は石炭灰から土壌を作ろうか!作るというよりも、石炭灰は植物の化石燃料である石炭の燃えかすだから、自然界へ上手に戻すにあたって、農作物が栽培出来るような養分と理学性を持った土壌として返せないだろうか?

そこで、石炭灰(燃えかすの大部分を占める小麦粉のような細粉からなるフライアッシュを使用、しかもこの豪州炭はpH11.3と強アルカリ性だったが。)、土壌微生物、ミミズの住む有用土壌を(出来るだけ短期間で)作れるかどうか、どのように出来ていくかを調べようと企画した。さらに出来上がった生成物の有効性は養分分析とともに1年生野菜のコマツナや樹木のオノエヤナギ(高木種で全国分布する)を栽培して、生育状況を調べ、実際に使えるかどうかを検討した。

(2)・・・なんとかうまくいった:
石炭灰と落葉(大学構内の農学部苗畑に多いシラカンバ、ヤナギ類、ハルニレなどの落葉)だけでの試験では乾重で1:1にして作った新土壌(源)はフトミミズ属のヒトツモンミミズ(体長10cm余)の成体を5匹投入するとプラスチック性の飼育箱(21cm×13cm×深さ13cm)で4週間という短期間に理化学性の優れた土壌となり(写真5)、露地のポット試験栽培で野菜が育つ土壌となっていた(写真6)。また、圃場で写真のように、樹高約10mのヤナギ群落を20cmの挿し木から6年間で作ることが出来た(写真7a,b)。この新土壌はミミズの活動でわずか1年で団粒構造を作り、育ったヤナギ群からの落葉も多く、一つの森林−土壌循環系が出来たわけである。このことは、有珠山で見て半ば証明した、ミミズを主とする早期の土壌生成を応用しえたことになった。

【写真5】
石炭灰とリターを用いた土壌生成試験
ミミズなしに比べフトミミズ属のヒトツモンミミズ5個体投入した場合、時間経過とともに団粒構造の発達の有無が顕著となる。ミミズ投入の場合も石炭灰1:落葉1の重量比では、石炭灰2:落葉1に比べ、より発達した団粒構造がみられる。(高橋・春木2000

【写真6】
生成土壌を用いたコマツナの栽培試験
石炭灰のみでは窒素が少なく葉は黄化する。ミミズありの等倍区が良好。

【写真7-a】
石炭灰とリターを用いた土壌生成試験
ミミズなしに比べフトミミズ属のヒトツモンミミズ5個体投入した場合、時間経過とともに団粒構造の発達の有無が顕著となる。ミミズ投入の場合も石炭灰1:落葉1の重量比では、石炭灰2:落葉1に比べ、より発達した団粒構造がみられる。(高橋・春木2000

【写真7-b】
生成土壌を用いたコマツナの栽培試験
石炭灰のみでは窒素が少なく葉は黄化する。ミミズありの等倍区が良好。

写真7a,b.農学部の苗畑敷地に石炭灰と落葉(リター)を1:1で作った土壌(源)に20cmの長さのオノエヤナギを挿し木し、ヒトツモンミミズを投入したところ、6年後には樹高10m、胸高直径9cmの群落が形成された。新たな落葉により循環系が作られ、また土壌(源)は団粒構造が出来上っている。(2001年5月31日)



6.もっと一般的な廃棄物処理が出来るか?
さらに欲張って、その後はさらに種々の有機廃棄物、モミガラ、コメヌカ、オガクズ、豆腐のオカラと無機廃棄物である石炭灰や火山灰も用いた土壌生成研究を企画した。現在、よく行われる食べ物残さのコンポスト化(堆肥化)は無機的な鉱物類をほとんど含まないので、微生物による分解が終わればほとんど残る物がない。それはそれでいいのだが、廃棄物処理場を減らしながら有用土壌を作るような廃棄物処理−土壌生成研究というわけである。これも、シマミミズを用いて何とかうまく形をなすことが出来、(注:オカラでは窒素分を多いのでアンモニアガスを発生しあまり多く混合出来ないなど難しい面もあるが)廃棄物学会で発表するなど一応の成果を上げているところである。

【図3】
ミミズによる廃棄物処理と土壌生成の可能性

ところで、最後にちょっとホラ吹きに思われるかもしれないが、試験結果に基づいて夢のあるお話をしておきたい。研究の中で、25℃で土壌水分60%という条件下では、これらの廃棄物混合物にシマミミズ10匹(成体)を投入すればどんどん個体数が増えて、成長していくことがわかった(注:米国ではさらによい条件を与えて私たちの数倍の個体数増加を記録している)。 私たちの実数を基に計算してみると、1年半で東京ドーム1杯分の廃棄物を農作物が栽培出来るような有用土壌に変えることが出来る(図3を参照)。これは広い場所で大型機械を使ってくり広げながら草本植物や樹木も交えて行えばそれほどお金もかからず、困難ではないのである。ぜひ一緒に、大規模に実行してくれるパートナーがいればと思っている。

無機鉱物質土壌などを、簡単に海に流さず、またわけがわからないくらいたっぷり我々の生活廃棄物を受容してきてくれたブラックボックスである地下の堆積物をもう一度ゆっくりとした自然の循環のサイクルに戻して有用な資源に変えてあげたいものである。書家のあいだみつを氏が言っていたように土も水も空気もみんな人間が作ったものではないのだから、大事にしたいものである。

7.おわりに:
有珠山や昭和新山は札幌から車で約100km、2時間ほどで行ける。手頃なこの距離に登れる活火山のあるのは北海道くらいである。毎月通っていると、すっかり親しんでしまい、有珠山の麓や火口原も結構な斜面にもかかわらず、仕事が終わる夕方まではほとんど平坦地のような気軽さで歩き回っている。また、昭和新山のドーム下鞍部の調査地付近で、私が命名した一服岩(いっぷくいわ)に腰を掛けて、汗を拭きながら眺めると、麓の壮瞥の町はもう私の故郷のような気がしている。これも、このような火山に巡り会えたたまものと思う。強烈な自然の力の発現に巡り会えたことを千載一遇の機会と、これを怖れずに観察の場に変えた昭和新山の育ての親故三松正夫翁やその後継者である三松正夫記念館(これはぜひ、ご覧になって欲しい!子供たちに見せてあげて欲しい!)長の三松三朗・泰子夫妻に感謝申し上げる。また、紙面に掲載の機会が与えられたら火山と森林と土壌とミミズたちのその後の様子をお知らせしたいと考えている。(なお、以下に付けた写真が多くファイルが大きくなってしまい、文献を省略したことをお断りします。)

味の文化から、ミミズと土壌の研究まで(みんな、つながって(・・・・・)いる!?」(その一)を読む

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