環境ボランティアリーダー養成講座第1回
「水生生物調査〜川の中から見た水質調査法〜」

子どもたちと環境活動を継続しているこどもエコクラブ「どんぐりの木」のサポーターの斉藤さんが、「子どもたちに教えることができる大人がもっと増えなければいけない」という問題意識から今回の連続講座を立ち上げられた。テーマは、地球温暖化、水問題、食料問題などから普通救命講習まで、環境学習に関わる幅広い内容となっている。毎回、各方面から専門家の方々をお呼びして質の高いお話を聞き、さらには実際に体験できる機会も用意している。

今回は6月4日(日)に行われた、第1回の「水生生物調査〜川の中から見た水質調査法〜」にご一緒させていただいた。今回はこどもエコクラブ「ドングリの木」のこどもたちと合同で行われた。こどもたちが中心の活動風景は見慣れているが、大人たちが主役となり、こどもたちがその傍らで講義を聴き、実習に取り組んでいる様子は風変わりだ。講師は、以前こども向けに行われた「みんなの地球環境教室」でおなじみのNPO地域パートナーシップ支援センター理事長の小野紀之さんだ。

小野さんは、区市町村の依頼で、環境講座の企画や環境ボランティア養成のカリキュラム作成、学校での環境教育、体験学習指導などの講師も勤めながら、教材開発なども手がける環境省環境カウンセラー。

今回の実習は、「景観」、「簡易水質分析(CODパックテスト)」、「生物による環境調査」を組み合わせることで、単に数字ではかることのできない人間の感情にも配慮し、生物の生息可能な水辺環境の維持、共生可能な環境の整備について役立つことを目的としている。また、今回実施する簡易水質分析は「身近な水環境の全国一斉調査」の一環も兼ねている。この調査は、平成16年度より国土交通省及び財団法人河川環境管理財団と市民団体等が協働で全国の水環境マップを作成するために行われているもので、2回目の昨年度には全都道府県で実施された。

まず、安全確保のための心構えと注意事項について強調された後、川や水の話、指標生物の特徴、水質分析のやり方について説明をしていただいた。講義の後は実習のため、釜の淵水の公園に移動してCODパックテスト、水生生物調査を行い、生物の分類と判定を行った。

CODパックテストは、水中での酸素消費量を調べることにより水が汚染されているかどうかを調べるものだ。酸素の消費量が多ければ多いほど、水に含まれている有機物が多く、水が汚染されていることになる。測定ミスを防ぐため、一度取水した水で同じ測定を3回行い記入する。検出薬と水に含まれる有機物の出す化学反応は水温により影響を受けるため、水温を計測して、水温に応じた検出時間を確保する。指定された時間が経過したら、検査の数値を色で表したものと、パックテストの中の溶液の色とを比較して数値を出していく。数値は0〜8までの9種類で数値が低くいほど、水の汚染の程度も引くことになる。
今回は、川の上流側と下流側の2箇所で同じ測定を行った。この日の結果では、数値は上流、下流とも「0」もしくは「1」前後と、汚染はほぼ心配ないことが判明し、近隣に住んでいる受講生一同は胸をなでおろしていた。

次は、水中生物の調査だ。石の陰に隠れていたり、石にへばりついている水中生物を取るため長靴を履いて川に入った。水温20度弱の川の水はひんやりと冷たかったが、受講生たちは、こどもに戻ったような生き生きとした表情で、懸命にムシを網ですくったり、手で取ったりしている。取った虫を容器に入れて、それぞれムシの写真入の資料と見比べて、種類を確定していく。生息している生物の種類により、その川の環境がわかるのだ。さらに、その生物を餌にする鳥なども観察する。まさに、受講生の皆さんがこどもの頃に経験していた遊びがそのまま調査になっている。

今回の実習で小野さんが「生物による環境調査」を取り入れた理由と重要性がよくわかった。単なる数値だけの測定だけでなく、実際にそこに生息する生態系を調査に取り込むことで、川を中心とした環境を包括的に見ることになったのだ。「そこにある環境に、人がどう関わるか?」。そんな問題提起をされているような感じだ。

「環境について考えるとき、単純に賛成、反対の議論をするだけでなく、様々な議論の中で共通項をみつけて環境問題に取り組む姿勢が大切です。」 と小野さんは強調されていた。数値や部分的な観測ではなく、包括的に環境の中で人がどう自然と関わるかということを考える出発点になる調査であることを実感した。

そしてさらに、「日本人は環境に対する意識が薄いと批判をされることもあるが、けしてそんなことはありません。日本人はもともと、自然に対して畏敬の念をもち、自然を大切にしてきたんです。こういった調査をきっかけにそういった意識が再び取り戻せたら」ということもおっしゃられていた。

HAND in HANDは自分達の住む地域に木や花を植えることを通じて、子どもたちに自然を取り戻す活動だ。それは、かつて日本人が有していた意識、感覚でありそういったものが失われつつあるからこそ、今取り組み、その輪を広げていくことに意味があると改めて実感する講座だった。

さて、子どもたちはどうしたかというと・・・
大人の受講生達も楽しみながら調査を進めている最中、「水溜りの水で検査したらどうなるんだろうか?」疑問に思い検査をしてみたり、その最中に水溜りに見つけたアメンボ採りに夢中になっていた。自然に触れるたときの感動や発見は、大人も子どもも同じように魅了してくれるものなのかもしれない。子どもたちと一緒に、夢中になって採集したムシの観察をしているときに感じた。

多摩川の川岸で水の採取方法、検査薬の色の見方について説明をする講師の小野さん。

水の採取場所の水温を計る受講生。
水温により検査薬の反応速度が変化するため、
慎重に水温を計測する。
この日の水温は、18℃。

パックテストCODのポリチューブ。
中に入っている粉末状の薬品が水に溶けて、水の酸素消費量を調べることができる。
黄緑色の糸を引き抜き、水を吸い込ませる。

採取した水をスポイトで小さな容器(ポリチューブが挿入されている容器)にスポイトで分け、ポリチューブでその水を吸い取るところ。
この日の水温は18℃。ポリチューブに水を吸い取ってから、五分後に結果を標準色の印刷されているシートと照らし合わせて数値を調べる。
写真入の資料と採集した水生生物を照らし合わせて、どんな生物が生息しているのか調べている。
【補足】
今回の「身近な水環境の全国一斉調査」の結果は、国土交通省より記者発表され、実施団体に結果が通知される。
 
NPO PTPL事務局 倉沢 平