オミナエシ
現在の暦で8月下旬(今年は8月23日)処暑という節気を迎えます。

  立秋は過ぎ暦の上では秋ということになっていますが、今年の残暑はものすごいものがあります。今年のようなことは予想できなかったかもしれませんが、残暑は例年のことで、この時期がピ−クであることを経験的に知って、『処暑』なんて実に味のある言葉を作った先人の知恵に驚かさせられます。

  昼間の暑さは凄いのですが、夜になるとさすがに涼しくなり虫の声が『間もなく夏が終わり、秋がやってきますよ。忘れ物はないですか。』とささやいているように聞こえ、無性にわびしさとものさびしさを感じるのは私だけではないと思います。

  高原ではもうススキの穂が目立ち始めます。私の住む横浜の校外では、その秋風を一番に感じて鳴き出すのは『法師蝉(ホウシゼミ)』です。おそらく確実に短くなっている日照時間を感じ取っているのでしょうが、お盆の前頃からリズミカルに『ツクツクホ−シ』とか『オ−シ−ツクツク』とか、地方によっては『筑紫恋し』とか聞こえる独特の鳴き声が目立ち始め、今まさに真っ盛りといった風情です。

  夜の帳がおりると、いよいよ秋の虫たちの出番です。最近では街の明かりで、夜空に輝く星たちが消されたのと同様、様々な音にかき消されて、なかなか秋の虫たちの演奏を聞くことができなくなってしまいましたが、それでも耳を済ますとジ−ジ−やリ−リ−、あるいはリリリッというコオロギの仲間たちの鳴き声が聞こえてきます。

  中でも、リ−ンリ−ンと鈴を鳴らしたような音を聞かせてくれるのはスズムシです。スズムシは昔から私たちにとっても馴染みが深く、この虫の飼育を趣味にしている人も多いようです。最近はデパ−トやペットショップの定番の商品となり、人気があると聞きます。
  時々、チンチロあるいはチンチロリンと優雅な鳴き声を楽しましてくれるのはマツムシです。スズムシほど飼育されたり商品になったりすることは少ないようですが、このマツムシも古くから私たちに馴染みの深い秋の虫の一つになっています。

  そのほかガチャガチャと賑やかに鳴くのはクツワムシや、チンチンと小さく鐘をたたくような音を出して鳴くのはカネタタキなど演奏者には事欠きません。中には草むらを抜け出して、わざわざ人の家の中まで出前の演奏をしてくれるウマオイなどを見つけると楽しさが倍増します。

くずの花
  ウマオイはキリギリスの仲間で緑色をした虫です。はじめはジ−ジ−と鳴いているのですが、気分が落ち着いたらスイッチョン、スイッチョンときれいな声で鳴くので聞いた人も多いのではないでしょうか。

  都会では、最近は街路樹に住つき、リリ−リリ−と大合唱を得意とするアオマツムシの集団が、喧騒をもろともしないほどの力強さで秋の到来をつげています。(杉)