冬の到来を告げる柊の小さな白い花

各地から菊人形の便りで賑やかですが、暦は『立冬』を迎え自然界は確実に冬の支度に追われています。冷たい季節風が頬を打つ日もありますが、時に暖かな小春日和と呼ばれポカポカ陽気な日もあるのがこの季節の特徴になっています。

そんな日には、外に出て周りを見渡してみましょう。きっと色とりどりのサザンカの花が目につくと思います。先日、私の住む町をほんの数分散歩しただけで、およそ15種類のサザンカを見つけることができましたので、詳しく調べると一体どれぐらいの種類の花があるのか想像もつきません。

ヒイラギの花が咲き始めるのもこの季節です。ヒイラギは漢字で『柊』と表されているように、この花が咲くといよいよ冬の到来です。厚く光沢のある葉のかげにかなりの数の花が群れ咲くのですが、花の一つひとつが白く小さくあまり目立ちません。ですからこの花を知らない人は多いようです。

サザンカのようなきらびやかさはありませんが、どこからともなく漂ってくる優しい自然な香りは、いよいよ冬の到来なのだな、という一時の安らぎと共に緊張感を感じさせてくれます。

昔の人たちは季節感を大切にしてきました。中でも、これから農作業がはじまる躍動感が充満する立春と、厳しい季節を迎える立冬は、特に思いが強かったのではないでしょうか。ですから身の回りの花にも、立春の頃に咲く華やかなツバキには『椿』、立冬の頃の清楚なヒイラギには『柊』というように、『木偏にその季節』を当てて、その頃に咲く花の代表としたのではないでしょうか。

中でも、リ−ンリ−ンと鈴を鳴らしたような音を聞かせてくれるのはスズムシです。スズムシは昔から私たちにとっても馴染みが深く、この虫の飼育を趣味にしている人も多いようです。最近はデパ−トやペットショップの定番の商品となり、人気があると聞きます。

ヒイラギは節分の魔除のまじないとして、枝を切って鰯の焼いた頭を門戸に挿しておく風習が各地で残っています。柊の葉の刺針と鰯の頭を焼いた悪臭が、悪魔や鬼の進入を阻むと考えられて古くから行われている習慣だと思いますが、厳しい冬を無事乗り越えたお礼の意味で、柊を用いたのかもしれません。

柊の花が盛りを過ぎるころ、季節は11月22日『小雪』、翌日の勤労感謝の日を迎えます。昔の人々はこの頃までに一年の仕事を終わり、長い冬に備えての準備を終えたのです。野山に本格的な霜が降りるのもこの時季からです。

現代人にとって季節感を味わうことが必要とする機会が少ないのですが、日本の文化の根底をなす季節の移り変わりに敏感になりたいものと思っています。