キブシの花。見たことありますか?
キブシ(木五倍子)が咲き始めています

春の雑木林を一番にいろどるキブシが今年も咲き始める季節になりました。

コブシの花はよくしられていますが、最初のコとキが違うだけなのにこのキブシの花は案外知られていません。また、野山で見つける特徴のある花は、たいがい俳句の季語になっているのですがキブシを歌った俳句にはまだお目にかかっていません。お茶席の花には、この時季欠かせないのに不思議に思えます。

人間との関係は深く、古くからこの木の髄(ずい=芯)をロウソクの灯芯として利用していたようです。地方によって、ズイキ、またはズイノキと呼ばれているのは、たいていこのキブシだと思われます。私も経験がありますが、この樹の髄を突き出し空気鉄砲の銃身にしたり、吹矢の筒にしたりして、子供のころ遊んだものです。この遊びからでしょうか、ツキダシ、ツキデ、ツキツキ、スッポンなどと呼ぶ地方もあるようです。

コナラやクヌギなどの雑木林の主役が本格的に活動する前のこの季節に、びっしりと房状に薄黄色の花を垂れ下げる姿は情緒があります。

この花は、上からゆっくりと咲き始めます。かなり花季の長い花なので、春の野趣を表現するには最高の題材です。最近生け花としても人気がでてきたようで、花屋にも並ぶようになってきました。

何もない和室の床の間に、安物でも良い一服のかけ軸を掛けて、背景にできるだけ質素な模様のない花器に下方はまだ固いつぼみだが、上方から柔らかな生命色の花が開きつつあるこの花を何輪か生けてある風景を想像してみて下さい。日本の春を何より生き生きと表現できると思っています。

この花が野山に目立ち始めると、私の庭に来る朝の目覚めの役のお客が、ヒヨドリからピ−ピ−という甲高い鳴き声から、シジュウカラのツピ−ツピ−という軽やかな歌声に変わってきたように感じます。コジュケイの『チョットコイ、チョットコイ』の声も心なしか明るく元気になったようです。

間もなく季節は『春分』を迎え、いよいよ春本番です。日本の春を華やかに飾る桜の蕾も大きくなってきました。去年までの私ならば、卒業式が近づく今頃になるといろいろと思うことが多くなるのですが、今年はのんびりと春を楽しむことができそうです。(杉)