雑木林でひっそりと咲くヒトリシズカ
ヒトリシズカ(一人静)の咲く雑木林

『一人静(ヒトリシズカ)』という素晴らしくロマンチックな名前の花を知っていますか。この花を、雑木林の周りの明るい草原で見つけることができると、なるほどと思わせる風情があり、その名をつけた古の人に親しみを覚えます。

この花の名は、源義経の愛妾『静御前』のシズカで、一輪の花の姿がこの女性に負けないほどの気品と美しさがあるとの意味でつけられたと言われています。名前のいわれを知っていても、すぐ近くを通り過ぎても、よほど観察力がなければ見逃してしまうほど目立たない可憐な花です。

小さな目立たない花だけに、現在でも人里に場所で見つけることができますが、昨今の野草ブ−ムでこの花は人気の的になっていますので、盗掘が後をたたないのが気がかりです。

草丈は20cmぐらい、茎の頂きに、4枚の先の尖った楕円形の葉が茎にほぼ十文字につきます。開ききると緑色になるのですが、花が咲き始めの頃は、柔らかい茶紫かかった緑の葉が、白い穂状の小花を包むのです。かなりの群落をなすことが多く、この様子に言葉で表せないような可憐さがあるのです。

花の姿から、昔の人は眉の手入れの道具にみたて、眉掃草(まゆはきそう)とも呼んで俳句の季語にもしています。吉野静などと呼ぶ地方もあるようです。

このヒトリシズカに似た草でフタリシズカ(二人静)があります。同じ仲間ですが、ヒトリシズカよりかなり大柄で、ヒトリシズカが一本の花穂をだすのに対して、ふつうは2本、時には3、4本の花穂をつけるところからこの名がつけられたようです。

草丈は50cmにもおよび、ヒトリシズカの可憐さに比べて、かなり大味な感じは否めません。葉は始めから緑色をしており、ヒトリシズカの萌え始める白く淡い春の色に比べるとかなり見劣りはするようです。

そのおかげなのでしょうが、掘ってまで持ち帰る人が少ないらしく、この花は今でも各地の雑木林で群落をなして生息しています。

私の想像ですが、『一人静』が名付けられてからかなり時代が下り、明治以後になって、単に姿がヒトリシズカと似ており、花穂が2本ということから名付けられたものだろうと思っています。

このような理屈はともあれ、『ヒトリシズカ』も『フタリシズカ』も、春の雑木林にはよく似合う花であることは違いありません。

人々に安らぎを与える雑木林と、そこを生活の場としている動物や植物達を愛し守り続けたいものですね。(杉)