卯の花の咲く頃

立夏を過ぎると夜明けが一段と早くなり、少しでも雨戸に隙間を残しておくと、そこから差し込む朝日のまぶしさで4時ごろには目が覚めることがあります。そんな日は一日中寝不足の感じがとれなくなる経験は誰でも一度はしていると思いますが、早朝でないと聞こえない小鳥のお喋りも楽しめるのは、この季節の楽しみの一つです。

先日もその時刻に目が覚め、いろいろな小鳥の声に心地好いまどろみを楽しんでいたのですが、突然ひときわ甲高いホトトギスの鳴き声が聞こえてきました。

姿はあまり魅力的とは言えませんが、『テッペンカケタカ』とも『特許許可局(トッキョキョカキョク)』と聞こえる鳴き声でよく知られているとともに、漢字で、時鳥とも不如帰とも書かれるほどお馴染みの夏鳥です。

林間学校などではよく耳にするのですが、都会ではよほど緑があるところでしか聞くことができないので、私はいわば、環境基準鳥といってもよいと考えています。

ホトトギスは自分の卵を他の鳥の巣に産み、自分では子育てしない鳥でもよく知られています。特に、卵を抱いている親鳥が餌を探しに飛び出したすきに、卵を落として、代わりに自分の卵を産みつけウグイスに子育てさせるといわれています。このような話を聞く度に私は、ホトトギスの知恵に敬意を表すると同時に、何て自然はうまく働いているのだろうと、感心することしかりです。

ホトトギスの鳴く季節は、『卯の花』の美しい頃です。私たちと同じ年代以上の人なら青春時代に誰でも口ずさんだ『卯の花の匂うかきねに ホトトギスはやもき鳴きて しのびねもらす夏は来ぬ・・・・・』の、あの卯の花です。

卯の花はウツギ(空木)のことで、枝の真ん中の部分が中空になっていることからこの名前があるのですが、現在ではウツギの垣根など、まずお目にかかることはありません。

随分以前になりますが、大田区で校長職をしていた頃、移動教室で子どもたちと伊豆高原の海岸を散策していた時、この花の群落を見つけました。同年輩の先生とこの歌を歌ったのですが、若い先生が知らなかったことにショックを受けました。今でも、この花を見るたびにこのことを思い出します。(杉)