梅雨に似合うギボウシの花

『ギボウシ』という野草をご存じの方はそれほど多くないでしょうが、梅雨に似合う花の一にこの花をあげる歌人も多いと聞いていますので紹介することにします。

この季節で誰もが思い浮かべる花は紫陽花(アジサイ)だと思います。そのアジサイのような華やかさはありませんが、私にも、小雨模様にたたずむこの淡い紫色の花はただそれだけで風情があるように思えてなりません。たくさんの楕円形の葉が密生する間から、ちょうど今頃の季節になると、長い花茎(かけい)を伸ばし漏斗状の小花をつけます。

 ユリ科の多年草で、楕円形の葉が、宝珠(ほうじゅ=楕円形をした宝物とすべきたまのこと)に似ているという意味から、疑宝珠(ぎぼうじゅ→ぎぼうし)と呼ばれるようになったという記録があるところから、昔の人達は、地上から密生する葉の様子に『命』を感じたのではないだろうかと想像しています。

 主に湿原や滝のまわりなどの湿った土地を好み、その意味ではかなりポピュラ−な野草の一つです。どうして広まったのかよくわかりませんが、近年では都会の公園などでもよく見られるようになりました。きっと皆さんの近くでも間もなくこの花が咲くはずですので探してみてはいかがでしょうか。

 私とこの花の出会いは学生時代に遡ります。重い荷物を背負って縦走の途中、お花畑での一息、一面に咲き乱れる高山植物たちには随分癒されたものでした。ギボウシの花もその中の一つだったのでしょうが、その時にはこの花の名前は全く意識しませんでした。教職について、当時は花の学校として知る人ぞ知る大田区の雪谷小学校に赴任してこの花を見た時、お花畑の光景を鮮明に思い出したほどですから、かなり私の心に残っていたのにちがいありません。

 わが家の庭に植えた一株が今ではかなり大きくなっています。去年株分けして3ケ所に分散しましたが、それぞれ元気よく育っています。

新芽の頃、葉をゆがき『おひたし』にしていただくとやや苦みがありますが、ご飯によくあいますので、もしたくさん入手できたら一度試してみてはいかがでしょうか。
入梅期に入りましたがこれからが本格的な梅雨の季節です。小雨に煙る日はもとより、梅雨の合間の明るい日、逆光でこの花と出会うと、はっとするほどの美しさと優しい気品を感じる人は多いはずです。(杉)