夏の花ムクゲ

6月末から7月にかけてフィリピンのネグロス島というかなり辺鄙な田舎に滞在していました。フィリピンは赤道近くにありますので当然常夏の国です。物凄い暑さを覚悟して行きましたが思ったほどではありませんでした。むしろ日本の夏の方が、気温も湿度も高く暑く感じます。季節は暑さのピ−クとしての指標『大暑』を迎えます。

季節がら、涼しげにそして寂しげに咲く野の花はなかなか見つかりませんが、まとまって咲く花が目につきます。中でも、代表的なのが、百日紅(サルスベリ)と木槿(ムクゲ)ではないでしょうか。両方とも花期が長いのが特徴であり、ムクゲは6月からサルスベリは7月から咲きはじめ10月下旬ごろまで咲き続けています。

サルスベリは最近品種が増えて、花の色の数は格段に多くなったようですが、とてもムクゲにはかないません。低温に強い温帯のハイビスカスといえるムクゲは、江戸時代から人々に愛されていたらしく多くの品種があります。
ムクゲは、深夜から早朝にかけて咲きはじめ,夕べには花を閉じてしまいます。そのため、華道では一日花として好まれないことが多いと聞きます。

しかし一つのお茶会の間、短い時間だけ茶席を飾れる花として、かえってこの花は一日花ゆえに「一期一会」の趣を愛でるのにふさわしい花という意味で『冬は椿、夏は木槿』として夏には人気があるようです。
ムクゲには「槿花一朝の夢」という言葉がありますが、人の世の短い栄華をムクゲの花のはかない命にたとえたものです。いわば『奢れる平氏久しからず』と同じで、一時的な権力を持ったとしても、間もなくそれは夢と消える、といったところでしよう。

花は一日花で落ちるのですが、その反面、樹の生命力は強く、夏から秋にかけて長い間次々と一日を命の限り咲きほこる花を樹全体につけて、散ってはまた咲き、咲いてはまた散る繰り返しを続けています。

そのような花を見て、韓国の人々の祖先は、このムクゲを『無窮花』と呼び、日本人の国民の花が『桜』であるように、韓国の国民花として愛してきました。何かの本で読んだと記憶していますが『朝鮮』の語源は『朝に鮮やかに』咲くムクゲの花だということです。この花を改めて眺めると、なるほどと感じてしまいます。  (杉)