野菊の花が風に揺れてきます

漢字から推察すれば、野に咲く菊の仲間なのでしようから、季節を選ばす全国何処にでも見かけることができるヒメジョオンやハルジョオンもいれなければならないかもしれませんが、『ノギク』という音からは、ヨメナ、ノコンギク、ユウガギクなど、かなり古くからわが国に自生している秋に咲く菊に似た花の総称として使われることが普通です。

中でもその代表的なものが、ヨメナとノコンギクです。私にはその区別はつきませんがどちらも、秋の野山や人里にごく普通に見られます。白から淡い紫色までバラエィティ−に富み、専門家はさらにシロヨメナやミヤマヨメナ、イナカギクやエゾノコンギクなどと細かく分類していますが、はやり『ノギクは野菊』でいいのではないでしようか。

これらの野菊は、早ければ8月始めから咲き始めますが、東京近辺では、秋分が過ぎ、秋の野のススキが爽やかな風にたなびき、澄み切った青空にアカトンボがゆうゆうと飛び交うこの季節が一番似合うようです。

私の住む横浜の田舎町では、まだ自然は残っており、早春になるとセリやツクシなど摘んで粥にいれて食べるのが毎年の恒例になっています。ここ数年、年々摘み草をする人の姿が少なくっているのは寂しい限りですが、野菊特にヨメナの若芽もその摘み草の対象の一つで、その味は早春の苦みを届けてくれます。

葉に特徴のあるヨモギとは違い、柔らかい雲のような若菜は、もんでみると春を告げる独特な香ばしい香りがします。古代から春の菜として知られているようで、『万葉集』には次のような歌が残っています。

『春日野に 煙立つ見ゆ 少女らし 春日のうはぎ 採みて煮らしも』

この歌の、うはぎとは兎芽子すなわちヨメナのことだと言われています。私は雲のようにと表現しましたが、たしかに子兎を思わせるような柔らかな毛におおわれたこの若菜は見るだけでも美味しそうで、素晴らしい表現です。

最近、花屋でよく見かけるミヤコワスレは、ミヤマヨメナは品種改良したものだといいます。6月頃から咲くので、6月菊などと呼ばれることもあるようです。元々が野の花ですので性質が強くどんどん増える傾向があり、市街地でも庭などでかなり見かけることができます。

 野菊を見ると私と同年配の方は、流れるような美しい文体で知られる伊藤三千夫の『野菊の墓』を思い出されるのではないでしょうか。

柔らかい文章は若い人にもぜひ読んでもらいたいものです。(杉)