お茶の花って見たことありますか

10月の声と共に金木犀の香りがどこからともなく漂っています。澄みきった秋空に金木犀の香り、日本を代表する季節の顔ですが、私がこの季節に待ち望んでいるのは清々しいお茶の花です。

最近、桑茶・五穀茶・はと麦茶・ズギナ茶など、お茶と名付けられながら実際のお茶とは違う植物の葉や茎を乾燥させて、熱いお湯を注いで色を出す飲み物が大変流行しています。しかし、本来『お茶』と名付けられている飲み物は、お茶の樹の葉を原料にしたものを言います。

昔から私たち日本人が愛用している緑茶、イギリスなどヨ−ロッパの人たちに愛されている紅茶、中国代表的なウ−ロン茶、最近ダイエット効果があると人気のプ−アル茶などは全てお茶の樹の葉を原料にしています。緑茶と紅茶が同じ樹の葉・・・と驚く人も少なくありませんが、全てお茶の葉が原料でただ作り方が違っているのです。

お茶の葉を摘んで蒸してから乾かしたものが緑茶ですが、この緑茶は随分古くから我が国では広く愛用され、生活の中に息づいてきました。ご飯を盛る器を『茶碗』ともいい、食事をする場所を『お茶の間』などという言葉がそれを証明してくれます。また『お茶にしない』とか『お茶の時間』なども今でも普通に使われています。

私は18才までを、京都の洛南は宇治の西、巨椋(小倉)で過ごしました。宇治といえば余りにも有名なものはお茶です。八十八夜を過ぎた頃には、一番茶を蒸す芳しい香りが街に漂っていました。また、この地で育った誰もが経験することですが、大きな竹の駕籠を背負い、お茶の若芽を摘んだことも良い思い出となっています。

ところで、お茶の花を見たことがある人は決して多くないと思います。勝手な推測ですが、お茶の樹さえ知らない人も少なくないのではないでしょうか。宇治で育った私でさえ、この季節にお茶畑に近づきませんので、お茶の花の可憐さや美しさを本当に感じたのは教職についてからですから、ずいぶん後のことになります。

それほど、この花は目立たない花なのです。白く丸いつぼみは、良く見ると真珠のような気品がありますし、雨上がりに小さな水滴などが付く姿は、はっとするほどの美しさを感じます。

私は、ツバキによく似た真っ白な花びらと、黄色のおしべの目立つこの花が大好きですが、花びらをいっぱいに広げたと思うとすぐに元の方から茶色に変色してしまい、純白の時季が、あまりにも短いのが何か物足りない思いで一杯です。

春早く咲く、純白なコブシや白モクレンもやはり同じような運命をたどりますが、この花は特に小さく目立たないだけに、よけいに哀れさを感じさせてくれます。

お茶の花が咲き始めると、私の秋は深まってきます。(杉)