秋に出会った『赤と黒』の見事な対比

野山を散策していると、『何故こんなに』と思うような素晴らしい造形や、『ふっと気持ちが翔ぶような』信じられないほどの芳香に出会うことがよくあります。また、『はっと思うほど』の色彩の対比に驚かされることもしばしばです。

この欄でも紹介したと思いますが、初めて『花筏(はないかだ)』に出会った時や、『山椒(さんしょう)』の若芽を摘んだ時、あるいは、春の花がすっかり終わった緑の中での『ザクロ』の朱色の花などとの出会いがそんな一時です。

秋は彩りが鮮やかです。 鮮やかすぎて、はっと思うほどの色の対比が目立たない季節かもしれません。でもゆっくりとあたりを見わたすと、ハゼやナナカマドのように燃えるような赤色や、ニシキギやモミジのように刻々とその色の変化が、ぬけるような秋の青空に映え心奪われることも多いものです。

漠然とこんなことを考えながら、秋の色を求めて近くの野山を歩いていたら、真っ赤な枝豆に似た植物の姿が目に飛び込んできました。

一面黄色の世界に誘ってくれたセイタカアワダチソウもすっかり花を枯らし、葉さえも茶色の枯れ草色に染まってしまっています。休耕田を彩ったミゾソバのピンクの花も消えあたり一面が生気のないくすんだ色彩に染まった世界に、一際目立つ赤です。思わず、フランスの文豪スタンダ−ルの名作『赤と黒』を思い出してしまいました。

タンキリマメです。

昔から『痰(たん)をとめる』効果があると民間で信じられていたので、痰切り豆(タンキリマメ)と名前がついたという植物です。

関東地方ではどこにでも見られ、つる性の多年草で、関東から沖縄まで海岸や平地の草原に分布していると図鑑では紹介していますが、今まであまり目にする機会はありませんでした。というより、しみじみとまわりを見る時間がなかったと言った方が正解かもしれません。

本当に痰を止め、咳を静める効果があるかどうか、薬草図鑑などで調べてみましたが、私の調べた範囲では、正式に薬草として認められる立場にはないようです。しかし、名前がつくほど、古くから民間では信じられていた植物なので、きっとそれに類似する何かの薬効があるのではないかと思っています。

薬草の知識は全くありませんが、民間の言い伝えを信じて私は『薬用酒』にしてみようと思っています。(杉)