ボリュームたっぷりに咲き誇るユキヤナギ
色つきのユキヤナギ

雪柳は春の使者

雪柳の白い小さな花が咲き始めると、本格的な春の訪れです。南関東地方のきわめて日当たりの良い場所では露地でも2月始めにこの花を見ることができますが、小さな葉を全て覆い尽くすほど真っ白な花がボリュ−ムたっぷりに咲き乱れるのは、普通は3月も半ば過ぎになります。今年も、その雪柳の季節が来ようとしています。

中国原産のバラ科の落葉低木で、葉の形が柳のように見えるので『雪柳(ゆきやなぎ)』と名づけられたようです。小米花、小米桜などと呼ぶ地方もあり、なんとなくおめでたい雰囲気を持つ花の一つです。長く伸びた枝に小さな花がびっしりとついた姿を雪をまとった花火の筒と見立て、中国では古くから『噴雪花(ベンシユエホウ)−雪を噴き出したような花−』と呼ばれ人々に愛されてきたと、以前読んだ本に紹介されていました。

温かい雰囲気と、気品のある美しさを持つため、古くから我が国でも垣根や庭木として植えられ、また生け花としてもかなり古くから重用されていたらしく、植物図鑑には室町時代の雑記『尺素往来(せきそおうらい)』にも『庭柳』として紹介されているという記載がありました。

遠くからでも目立つこの花は私にとっても、かなり気に入っている花の一つです。教職に携わっていた頃は、この花が目立つと卒業の季節を迎えることもあり、記念樹として赴任した学校には必ず植えてきました。

特に『朧月(おぼろづき)』に照らされた、どことなく緩んだ空気を走る、柔らかく弱い光の中でぼんやりと白く浮き上がる姿に、間もなく巣立つ子ども達一人一人の顔を浮かべるのは教師として寂しさと共に喜びでもありました。

びっしりと詰まった花の一つをとってじっくり眺めてみると、花びらの一枚一枚にサクラやウメ、モモやナシなどに見られる縦縞の優しい線に気がつき、バラ科の植物に共通な特徴を発見できるはずです。

カリンやリンゴ、ピラカンサやシモツケ、またイチゴの類やヤマブキ、コデマリやサンザシなどにもこの線が見られますので、ぜひ春に目立つこれらの花を観察してみてほしいと思います。

『花屋の荷花をこぼすは雪柳』という大谷碧雲居の俳句があります。大谷碧雲居という人は教科書にも載っていませんので、私たちには全くといってよいほど馴染みが薄い人ですが、この雪柳の特徴を実に巧みに表現しているではありませんか。この花はお正月にもよくお祝い花として使われますが、花屋さんが大切に運ぶ様子がよく表されている秀作だと思っています。(杉)