黒文字と月桂樹の葉なの競い合い

お茶の席などで、上品な一切れの『羊羹(ようかん)』が皮つきの太めの『楊枝』に添えて出されることがよくあります。その楊枝で羊羹をいただくと、ほのかな芳香が漂ってきた経験をしたことがあるのではないでしょうか。これがクロモジの楊枝です。

クスノキ科の落葉する比較的大きな低木で、日本全国どこでも見かけることができる樹木です。名前のように枝がやや黒みを帯びた黄緑色ですべすべし、しなやかで且つ独特の枝振りなので一度覚えるとめったに忘れることがありません。

この樹木の材には油が含まれ、しかも芳香があるので楊枝として昔から利用されていました。種子からは油がしぼられ、灯油として利用していたとの記録もあるようです。

私の住む横浜郊外の里山にも自生し、よく実生から育った幼木を見かけることができます。わずか50センチほども小さな木でも一人前に芳香を放ちます。私はこの木が大好きで自宅の狭い庭に数本植えています。下枝で作った楊枝はお客様に好評です。

4月始め、小さな葉の芽に混じって黄緑色の小さな花を咲かせます。雌雄異株なので雄花と雌花は同時にはみられません。雄花も雌花も共に可憐でしかも気品があり、花が多いこの時季でも特にお気に入りの花の一つになっています。花と一緒に出てくる葉は、柔らかなそして透き通るような黄緑色で、春から夏の期間私達の目を楽しませてくれます。

やがて秋になると、比較的早く落葉しますが、その後には来年の花芽と葉芽が準備されており、大きくふくらんだ芽が冬の冷気の中で力強く天を指していますので、鑑賞の価値は十分あります。

この花と競い合うように咲くのがゲッケイジュです。花の付き方が気品では劣りますがクロモジにとても似ています。こちらの方は常緑の小高木で、調べてみると同じクスノキ科のいわば親類のようなものでした。

このゲッケイジュは月桂樹と書かれ、西洋料理に欠かせない香辛料として欠かせないロ−レルあるいはロ−リエの名でよく知られています。この枝で冠を作り、凱旋将軍や競技の勝利者の頭にかぶしたのが月桂冠であり、今もその行為がスポ−ツ界で生きているようです。古代ロ−マ時代からの風習ということですが、この植物の強い萌芽力と一年中緑の葉、そして何より当時の人々を酔わせる芳香のために珍重されたのだろうと思います。

ゲッケイジュの葉をかわかした『ロ−レル』とクロモジの枝で作った『楊枝』が、今年も我が家で役立つことと思います。(杉)