サトイモの葉の露


 このところ梅雨空が続き、何となく気分が塞ぎがちになりますが、連休の頃に植えたサトイモの芽が出揃い、いよいよ元気に育つ季節に当たります。

 サトイモは比較的育てやすい野菜です。種芋の上下を間違わなければ確実に芽を出してくれます。比較的土地を選びませんので、子どもたちに野菜作りを教えるには最も優れた素材なのです。その上、芽を出すまでかなり時間が必要で、しかも種芋個々によってかなり時間差があるのも、じっくりと時間をかけて指導するのに好都合です。

  私のサトイモの育て方は、(畑をよく耕す必要があることはあたりまえですが)耕して平らになった畑に水糸を張り、二尺(60cm)程度の間隔にスコップで穴を掘り、そこに種芋を埋めていく仕方を採用しています。ジャガイモと違い、芽の出るところが一つだけですので、小さく切り分ける必要がありません。
 種芋を埋めて、軽く土をかけて見た目に平らにしておきます。しばらく放置しておくと雨が自然に、種芋を植えた柔らかい部分を少し凹ましてくれますので、植えた場所が明らかに分かります。(農作業などしたことのない子どもたちにとって、なにより大切なのは、どこに植えたかがはっきりとわかることなのです。)
 しばらくすると雑草がはびこってきます。6月の初めごろになってやっと一番の芽が地上に姿を現します。子どもたちが雑草の中でこの葉を見つけられたら、サトイモの栽培は90%成功したと言ってよいのですが、芽が出揃うまでかなりの時間がかかりますので、大部分のサトイモの芽が揃った6月下旬に全員そろって雑草抜きをします。この時抜いた雑草もゴミではなく資源、肥料になることを教えてサトイモの芽の下にそっと重ねておくことを教えるのも、命の教育にとって重要なことです。
  雑草を取り除き、追肥を交えて一株一株ていねいに土寄せしていくと畝ができて畑らしくなります。あとは教師が細かく指導しなくても、水やりなど子どもたちが自発的にはじめるようになります。葉にまんまるの美しい水滴も発見し、何故こんなに玉のようになるのだろうと不思議がるのもこの季節です。

  その様子を見ながら私は、教職にあった頃は7月7日の七夕に合わせて次のような話をするのが恒例になっていました。

「 七夕飾りには短冊がつきものです。その短冊に『勉強ができますように・・・』などと墨で自分の望みを書くと叶えられるという言い伝えがあります。もちろんていねいに書くのは当然ですが、その時庭のサトイモの葉についている丸い水滴を集めて、硯に移して墨をすって正しい姿勢で習字をすると、字が上手になるとも言われています。
今日の習字の授業は、畑のサトイモの葉についた不思議な水滴を集めて硯を摺って、短冊に自分の望みを書くことにしましょう。」

 子どもたちはすっかりその気になって、普段の腕白坊主も神妙に墨をするようになるのが不思議です。このような姿を見ると、いつの時代になってもロマンがある話には子どもたちは興味を示し、その主人公になりたいと夢見ることを実感します。

  今年も、その七夕の日が近づいてきました。ロマンが少なくなってしまった現代、せめてこんな話はいかがでしょうか。(杉)