浅葱色とクサギの実

 『浅葱色(あさぎいろ)』って知っていますか。
 もともとは『若い葱の色』という意味から名づけられたようですが、むしろ渋い空色と表現した方がよいのかも知れません。日本古来の魅力的な色彩の一つです。
 私が感じている浅葱色を表現するとしたら、雲一つなく晴れわたった西空の抜けるような空色が、茜色に染まりはじめた瞬間の、澄みきった薄い空色というところでしょうか。

 最近は、普段では和装の女性はめったに見かけることがありませんが、お正月や成人式となると晴れやかな色彩の着物姿の若い女性の姿が目立ちます。その豊かな色彩の中でも一段と艶やかに見えるのが空色ではないでしょうか。
 なかでも、浅葱色の着物は別格だと私は思っています。
 蚕から得られる本物の絹を、昔ながらの自然から得られた染料で染めた、日本の伝統的色彩である浅葱色という美しい空色、その浅葱色を出す原料のクサギという樹木の実が秋の柔らかい太陽の光を受けて輝いていきます。

  この樹は、晩夏には大きな葉の影に楚々とした真っ白い花を咲かせます。その花の後に赤い五つ額の上にのった風情のある紺碧のこの実を、灰汁で煮出し、こした液で染めるとあの気品に満ちた落ち着いた浅葱色が現われます。
 クサギは漢字で書くと『臭木』と書きますが、臭いといっても花が特別変な臭いをだすかというととんでもありません。真夏に咲く花は、5片の赤いがくに支えられた、真っ白な花びらが見事なまでも調和して、夏の終わりの野山を美しく飾ってくれます。特に目立つ花のないこの季節では、女王の称号を与えてもよいとさえ思っているほどです。

 では、どこからこんな変な名前がついたのでしょうか。
若葉の頃、明るい野山を散策していると、急にプ−ンと強烈な臭いを感じた経験は誰もが持っているのではないでしょうか。そのほとんどの場合が、このクサギの若葉に触れたからなのです。それほど一種独特の強烈な臭いがあります。
 植物は、自分では動けないので様々な方法で種を残しています。クサギは美しい花を咲かせ昆虫を呼び寄せそして気品ある実を熟させ鳥に食べてもらうことによって、命を次ぎに伝える宿命があるのです。
  そのため若葉の間は、虫をできるだけ避けるために、このような強烈な臭いを出しているのではないかと私は想像しています。(杉)