『ビワの花の咲く頃』

 ビワの花が咲き始めました。今年は秋が暖かだったので少し遅れ気味な気もしますが、薄茶色と白のツ−トンカラ−の花が木枯らしの中、リンとした天に向かって咲く様は、周りにあまり目立つ花がないこの季節には気高ささえ感じさせてくれます。
 表面が柔らかい毛と粉におおわれた、ややオレンジ色をおびた黄色いビワの実が果物屋の店頭を飾るのは、爽やかな風が肌に気持ちが良い初夏から梅雨にかけての季節です。
 最近では、ほとんどの果物が一年を通して出回っているのですが、このビワばかりは温室栽培が難しいとみえて、この頃にしかふんだんにお目にかかる機会がありません。
 時に10メ−トルを超す大木も珍しくないビワの樹は、温かい環境を好みますので、関東から西南の地方に多く、都会や公園や庭先などで『実生(種から芽生えた小さな苗)』を見かけることもまれではありません。
 この実生は、初夏の実が熟して美味しくなる頃をカラスたち大型の鳥たちはよく知っており、彼らのいたずらの落とし物から生まれた命です。
 ビワの葉は大きく、表面は光沢のある濃緑色、裏面は白っぽいビロ−ド状で密毛がびっしりついているのも特徴の一つです。11 月の中頃から、枝の先端にかなりたくさんの薄茶色のつぼみが目立つようになり、順々に翌年の2月頃まで、芳香のある白い花を咲かせ続けます。
 この時季は花が少ないので誰でも気がつくはずなのですが、花が小さいうえに葉が大きく枝の先に咲くので下からはなかなか見つけにくいようです。葉を切り取って花だけ見せてビワの花だと分かる人は案外少ないのに驚かされます。
 旧暦の11月の頃の穏やかな日を『小春日和』といいますが、この穏やかな冬の昼間この花のまわりには蜜蜂が集まっているのを見かけることがあります。花の少ないこの季節は蜜蜂にとって絶好のごちそうなのでしょう・・・。この蜜蜂によって受粉し、春から初夏にかけてあのオレンジ色のかわいい実が熟していくのです。
 実生から成長したビワは放置しておくと、一枝に10〜15個もの実が付くため、一つの果実は小さく直径2センチぐらいにしかなりません。
 去年私は、一枝の果実を1〜3ケ残して他を摘んで、ネットをかけてカラスに食べられないようにしたのですが、ある日起きてみると見事に全部食べられてしまっていました。カラスがどうしてネットをかいくぐったのか未だに不思議な気がしますが、頭のよい彼らのことですから、下からもぐり込むのなど簡単なことなのでしょう。
 ビワの葉にはかなりの栄養のあるエキスが含まれており、古くから漢方薬として利用されています。最近は健康食品ブ−ムとのことで、ビワの葉を乾燥させてお茶にして飲む『ビワ茶』が流行っているようです。その他にも、葉の上に『もぐさ』をのせ、患部にお灸する『ビワの葉温灸』や、ビワの葉をお風呂に入れる利用法もよく知られています。
 私はどれも試してみたことがありますが、ビワの葉のお茶は甘さがあり飲みやすいものですし、ビワの葉温灸は葉が厚いのでかなりの量のもぐさを置いても熱さはそれほどでもなく、さっぱりとします。ビワの葉には不思議な力があることは確かなようです。
  皆さんも一 度試されてはいかがでしょうか。(杉)