『モミジのヘリコプター』

 このところ雨が少ないのが気になります。例年なら、6月の声をきくようになると『梅雨』の到来を感じさせるような天候になるのですが、ここ数日は朝から日光が照りつける真夏を思わす毎日です。
 都会暮らしの人々にとっては都合が良いに違いありませんが、農業を営む方々にとっては水不足の影響で農作物の生育に支障がではじめたようです。
 それ以上に、自然界の動植物にとっては早く『梅雨入り』を願っているのではないでしょうか。また、人間社会でも夏の『水不足』が心配になり始めてきました。
 この季節の野山は緑に包まれていますが、緑と言っても様々、よくぞこれほどまでの緑の色を自然は作り出しているのだろうと感心させられます。その数ある緑の中でも一際鮮やかな緑の一つに『イロハモミジ』があります。

 イロハモミジという名前は、手のひら状に分かれた葉の裂片を、はしからイロハニホヘトと七つ数えることからきているといわれていますが、葉によっては五つであったり六つであったりすることもありますので、この名前の由来の真偽のほどはわかりません。
 このイロハモミジの春の芽吹きは薄紅色を帯びていますが、やがて青味(緑味)を増してきます。すっかり緑の葉でおおわれる四月中頃から五月にかけて、葉の間から直径五ミリほどの淡い紅色がかった小さな花を咲かせますが、目立たないのであまり知られていないようです。
 花は間もなく独特の翼がついたようなプロペラ状の種子になリます。あまりにも緑が鮮やかすぎるのでついつい見落しがちですが、今の時季にびっしり枝の先にぶら下がるようになります。
 このようなプロペラ状の翼は、単なる飾りではなく大切な働きをもっています。種子は秋までじっくり熟成するようですが、枝から落ちる時、翼の働きによって回転運動が加わりまるで舞っているようにゆっくり落下するのが特徴です。

 私はこのイロハモミジの種子が落ちる様を『モミジのヘリコプタ−』と称しています。
 熟した種子は、秋紅葉する前に風に身を任せ、次代へ向かっての旅立ちをし、着いた所で翌年の春新しい命を芽生えさせるのです。

 ある研究者によれば、風速五メ−トルの時に十五メ−トルの高さから落とすと約五十メ−トルも遠くに運ばれるということです。この時季の種子は熟していないので軽く、これほどまで遠くには飛ぶことはありませんが、高いところから落として回転する様子など実験してみると、『モミジのヘリコプタ−』という言葉を実感していただけるのではないでしょうか。

 
自分で生きる場所を選べない植物のすばらしい知恵を感じとり、ただただ感心するばかりです。
 モミジの枝さきにヘリコプタ−が目立つころ、季節は『芒種』。ハナシウョブが咲き始めホタルの恋の季節の訪れとなります。(杉)