生活に豊かな自然を取り戻す都市でビオトープづくりを
藤本和典さん

 埼玉県川口市在住の藤本和典さん(50)=写真=は、東京都板橋区成増の実家で小学生の頃から、生き物を呼ぶ庭づくりをしてきた。初めての取り組みは、鳥の水場づくりから始まった。

 砂を敷いた小さなコンクリートの器に水をはって鳥の水場を作り、一年に渡って庭先に置いてみた。水場には、やがてメジロやシジュウカラ、キジバトなどが来るようになった。ある日、水を換えるため砂をバケツに移したところ、砂の中に動くものを発見した。あわてて調べてみると、それは無数のヤゴだった。

 季節を振り返ると、多くのトンボが夏から秋にかけて庭先に飛んでいたことが思い出された。この時、こんなにも簡単に自然を庭先に取り戻すことができることに気がついた。小学校高学年の時の体験だった。この出来事が、藤本さんのビオトープづくりの原点だという。

 ビオトープには、もともと「生き物の住むところ」という意味があり、現在は「人間が生活する場に復元された、生き物たちの生ける環境」を指すことが多い。

 現在、都市部を中心に、学校や企業、そして個人の庭やベランダで、ビオトープづくりが盛んに行われている。生き物が住める環境は、人間にとっても良い環境であり、多くの生き物が減っていく中、自然を守り取り戻すための、誰にでもできる自然保護活動とも言えよう。

 ビオトープづくりは、広い庭がなくても工夫次第で、ベランダでも十分楽しむことができる。大きくて深めの発砲スチロールやプラスチックの器を用意し、底に砂泥や園芸店で買ってきた粘土質の土を傾斜状に敷き,水場と陸地を作る(図参照)。

 そこに田んぼの畦に生えているような植物を植える。なければセリやクレソン、クワイなどでも十分だ。水場には、ヒメガマやスイレンなどを植え、自然環境を再現する。藤本さんが長年の経験で学んできたことは、その地域の植生にあった植物を植え、昔からあった環境づくりをすると生き物が来やすくなるということだ。水の管理さえしっかりすれば、やがて2〜3ヶ月たつと狭い環境ながら、トンボを呼べるビオトープが完成する。

 ビオトープに関する質問の多くは、蚊の発生は大丈夫かということだ。水辺の環境はボウフラの発生に決してつながらない。ボウフラの発生原因の多くは、近くに竹藪やゴミの投棄があること、あるいは植木鉢の受け皿にたまった水など、天敵のいない小さな水場がつくられていることによる。

 メダカやヤゴがいれば、ボウフラは発生しても格好の餌となって食べられてしまう。ボウフラの発生は、地域の自然環境を再現していないことに起因すると言えよう。自然環境をきちんと再現できれば、一種の生き物が大量発生するということはありえない。

 ボウフラ発生を防ぐため完成したビオトープには、メダカを入れ自然な状態を作ることが重要だ。ただし、メダカはヤゴの餌となってしまうので、メダカが避難できる水草を植えたり、隠れ場所となる石などを入れる必要がある。

 藤本さんはビオトープを個人の庭に取り入れることに力を注いでいる。一軒の庭やベランダで始まったビオトープが、近所に広がり、やがては地域に拡大しながら、点が線となり、そしていつの日か面となっていくことを目指し、ビオトープづくりに励んでいる。

 「地域と行政が結びつき面となることで環境が良い方向に変化していくことを期待したい」と藤本さんは話す。生き物と緑が増え、都市に住む人々が季節の移ろいを身近に感じられるようになっていくきっかけとして、ビオトープづくりの果たす役割は大きい。身近に昔からあたりまえのようにあった自然を取り戻していくために、そして緑や生き物に触れ、生活に潤いを見いだすために、ビオトープづくりは有効と言えよう。

 「ビオトープの役割は環境づくりだけではない」と藤本さんは話す。親子の対話など世代をこえた話題づくりの場となったり、人の生き甲斐そのものにもなり得ると言う。藤本さんは今も忘れずに覚えていることがある。ある家庭で、メジロが大好きな寝たきりのおばあちゃんのために、庭にツバキを植えた。窓辺にはミカンを置くことにした。

 するとメジロが毎日のように来るようになった。おばあちゃんはとても喜び、メジロが来るたび窓辺に顔を向けるようになった。そして驚くことに起きあがるようになっていった。この話を聞き、藤本さんは、生き物と接触することの意味を改めて認識したという。

 藤本さんのご両親も毎年やってくるジョウビタキを楽しみにし、ジョウビタキが来るたび必ず記録を取っている。このようにちょっとした取り組みで、生活の中に豊かさを取り戻すことができる。自然は遠くにあるものではない。いつも近くにあるものだ。ビオトープを通して少しでも多くの人達が、身近にある自然に気づいて欲しいと藤本さんは話す。

現在、藤本さんはシェアリングアース協会(東京都新宿区)の代表をつとめ、豊かな自然の恵みを分かち合い(Sharing)、人と自然のよりよい関係を目指して、自然観察会をはじめ、自然を愛する人々のネットワークづくりや人材の育成など様々な活動に取り組んでいる。