なぜ、いま、屋上緑化なのか

(元)渋谷区環境清掃部 環境保全課 緑化推進主査 
小嶋和好

 今日、私たちが直面している環境問題は、物質的な豊かさや利便性を求めて、大量に物を生産・消費・廃棄してきた社会のあり方に起因している。数ある環境問題のなかで、私たちにもっとも身近なものがヒートアイランド現象(熱大気汚染)であろう。

 ヒートアイランド現象はとくに都市部で深刻化しており、この20年あまりで気温が30度を超える日が激増し、かつ、長時間化している。この現象が生活に及ぼす影響は大きく、熱中症や暑さによる睡眠障害などの身体的影響、作物など生態系への影響、エネルギー消費の増加など、さまざまな方面から私たちの生活に影響を与えている。

 このまま、ヒートアイランド現象が続くならば、地球温暖化という大きな波となって、いずれは地球全体の生態系を崩し、子孫の繁栄も望めなくなるかも知れない。

 世界的にも地球温暖化への危機感が高まっていることは周知の事実で、1997年に採択された「京都議定書」に基づき、地球温暖化の要因と考えられる二酸化炭素、メタン、亜鉛化窒素など6種類の温室効果ガス削減への取り組みがはじまっている。

 とはいえ、地球温暖化は人間活動の度合と呼応するものであり、その抑制は経済発展との兼ねあいで難しい問題をはらんでいる。人工的な廃熱の防止や都市形態の改善などに、さまざまな角度から取り組むことによって、ヒートアイランド現象を抑制することも可能だろうが、その実行には区民・行政・企業の三者が一体となって取り組むことが必要不可欠だ。

 ところが実際は、さまざまな利益関係が複雑に絡みあい一朝一有にはいかないのが現実といえる。

 しかしながら、ヒートアイランド現象は今も確実に進んでおり、実行可能な次のステップに突入しなければならない状況に直面している。そこで私たちが、身近なところで実行できる対策は何か。

 その答えのひとつが、屋上緑化だ。屋上緑化は、少ない経費で、しかも個人レベルで取り組むことができ、しかも趣味と実益を兼ねた楽しみになり得るとともに、緑に触れることで精神的な潤いをもたらしてくれる。身近なところで無理なく推進していくことが、結果的にヒートアイランド現象の抑制へとつながっていくのである。

 では、屋上緑化がもたらす効果とは何か。その効用には次のような事柄が考えられる。

1、建築物の緑化によって涼感を得られることにより、冷暖房エネルギーを節約することが可能となり排出熱の削減が期待できる。

2、植物が持つ「冷気噴き出し現象」と「浄化作用」によって街自らが空気清浄機能を持つようになる。

3、緑化は温度変化による建築物への影響を削減し、紫外線などの影響による防水層の劣化も防いでくれる。また、日射による焼き込みの軽減や照り返しなどによる近隣への被害も防止し、建築物の保全に有効である。

4、屋上の植物や土壌には雨水を一時的に蓄える保水作用がある。屋上緑化がさらに進めば、この雨水流出緩和効果により一気放水が防げ、汚水処理場の負担軽減を図り、汚水の流出防止が可能となる。

5、緑を身近に感じることで、精神的やすらぎが得られ、ストレスの解消と心の癒しを私たちにもたらしてくれる。また、緑を介して近隣住民や家族とのコミュニケーション作りも可能となる。

 このように屋上緑化がもたらす効用は多様で幅広く、しかも奥行きの深いものといえる。しかしながらヒートアイランド現象抑制を政策として実行していくためには、前述した通り複数の利害や思惑が複雑にからみあい、その実現は困難きわまりない。

 そこで、区民・企業・行政の三者の利益に通じる施策を講じ、政策を推進していく必要がある。では、三者にはそれぞれどのような利益が考えられるか。区民の利益は、先に延べた通りである。企業にとっての利益はどうか。まず上げられるのが、従業員の休息の場として利用でき、仕事の能率化につながること。

 また、屋上緑化はビジネスチャンスとしても考えられ、地域活性化にもつながっていく。行政にとって屋上緑化は、少ない経費で区の緑被率を向上させることができ、区民が緑の多い環境で暮らす政策が実現可能となることだ。更に、企業が屋上緑化から新たなビジネスを展開し利益を出すようになれば、増収にもつながり区民そのものに利益の還元ができるのである。

 以上のように三者に利益をもたらす屋上緑化は"一石二鳥の策"と言えそうだが、いかがだろうか。