「富士山」逸話あれこれ

20. 富士山に地図の上では川がないわけ                                               

 

 富士山のきれいに並んだ等高線の地図を見ていて、何か気がつくことはないだろうか。実は、この山に源流を持つ川が一本もないのである。どこの山地、山脈を見ても、人間の静脈図のような青い線が何本も引かれているのに、富士山のあの広い円形の中にはそれがない。
 利根川は三国山脈の丹後山、信濃川は秩父山地、木曽川は木曽山脈などと、流域の広い川でも、もとをたどればかならずどこかの山にたどりつくものだが、富士山は海抜900メートル以上の部分に、川はないのだ。
 富士川と、そのものズバリの川があるではないかといわれそうだが、この川の源流は南アルプスの駒ケ岳付近である。
 では、年間20億トンを超えるともいわれる富士山全域に降る雨や雪の水は、いったいどこへいくのか。地下にしみこみ、溶岩や砂礫を抜けて伏流水となって富士五湖をつくり、さらに山麓へ流れ下って、標高700メートルあたりのあちこちで湧水となって、はじめて川を形成するのだ。
 たとえば、東麓の御殿場あたりで湧いた水は黄瀬川となって狩野川に注ぎ、西麓の芝川は富士川の支流になっている。
 ところが、一般の地図に載ることは絶対にないが、川と呼んでもいいものはあるのだ。しれが、「大沢崩れ」を源流とする大沢川。ところが、川の規定である「常に流水が、幅1.5メートルはあること」という条件に当てはまらず、年間のほとんどが水のない涸れ川なのである。
 しかし、大雨のあとや雪解けシーズンは、地下にしみ込めなかった水が、富士の主峰剣が峰(つるがみね)西側の大沢崩れに発して、峡谷部や森林を抜けて西麓標高500メートルにある富士宮有料道路の大沢川橋まで、全長16キロ、標高差3000メートルを超えて、大河となるのだ。その水流は、8トンもの岩を押し流すほどで、大沢崩れの土石を下流の扇状地へ運んでいる。
 残りの水流は潤井川となって、駿河湾の田子の浦に注ぐ。その大沢川の子供ともいえる潤井川が、たったひとつの富士山の川といえるだろう

  (河出書房新社「日本地図の楽しい読み方」より

 

 

 

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