「わたしと富士山」

名古屋均、好江

 学生の頃、友人達とドライブついでに丹沢大山や高尾山、筑波山等のロープウェイで登れる山に登り展望の素晴らしさを楽しんでいた。

 就職してからは、仕事一筋、結婚後も年に数度のツアー旅行を夫婦で楽しむ程度であったが、1995年、一生に一度は富士山に登りたいと思うようになり富士山御来光登山ツアーに申し込んだ。そして二人で気軽に参加するが、眠気と薄い空気の為、軽い高山病にかかり、打ちのめされてしまった。しかし、その時の富士山頂から見た御来光に涙が出る程感激し、最高の達成感を得る事ができた。

 この時、ガイドさんが、歩幅やスピード、息継ぎ等を丁寧に教えてくれ、体力を消耗せずに登るコツを体感する事ができた。

 その後は、箱根や丹沢、奥多摩等を登山地図やガイドブックを頼りに二人で登るようになり、少しづつ力が付いていった。

 数年後、二人で日帰り富士登山に挑戦する。そして頂上では、抱き合って喜びあう事ができ最高に感激した。病み付きになった私の富士登山は、週末を中心に頻繁になり、3回に1回は夫婦で登るようなペースになった。その結果、夫婦二人合わせての登山回数が、いつのまにか400回を超えていた。

 富士山頂からの景色は、この世のものとは思えない程素晴らしい。頭が空っぽになって、その美しさに見とれてしまう。北アルプスから南アルプス、そして伊豆半島まで望める景色は、雲の具合や季節によって毎回違う。何度見ても飽きない。

 夫婦二人で登る時は、一人が「休みたい」「お腹が空いた」と言えば、もう一人はそれに合わせて必ず止まることにしている。雨や風で辛い時でも、二人だと安心感があり、普段より夫婦の会話は多くなる。富士山のおかげで夫婦円満といったところであろうか。

 危険な目にもあった。私は残雪の富士山を下る途中、滑った体を止めようとして指の骨を3本折った。妻も雪渓で滑り、膝の靭帯を切った。突風で体ごと宙に浮いたり、下から吹き上がる雨で服がずぶ濡れになって、体が冷え切ったりと、辛いことがたくさんあった。しかし、後で振り返ると楽しい思い出である。

 2005年、富士山登頂で有名な大貫金吾先生と、五合目の駐車場でばったりお会いし、一緒に登山させてもらった。この時、富士山のバリエーションコースや登下山の技術を、手取り足取り教えて頂く。以降、私は先生を師と仰ぎ、有難いことに先生は私を弟子と呼んでくれるようになった。そして先生の500回記念登山に、私達も同行させてもらうことができた。これを期に、色々なルートで毎回楽しみ方を工夫するようになって、ますます富士山が好きになり、のめり込んでいった。不二の病にかかったようだ。

 日本人の遺伝子には富士山が刷り込まれているのではと思う。大好きな富士山を皆で楽しんで欲しいと願いつつ、私達は山から貰ったものを少しでも多くの人にお返ししたいと思っている。

吉田口頂上直下



富士宮口八合五尺
富士宮口頂上
剣が峰01
剣が峰02


残雪期の登山(雪渓直登)
頂上火口底より空を仰ぐ

2009年12月28日掲載       ..


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