大分の山・登山記   辻本 貞治
おらが豊後富士 由布岳に魅せられて


 定年退職をきっかけに、夫婦で始めた山歩き。 最初のころは何も判らないので、ガイドブック「大分県の山」を参考に、体力度、危険度ともに1の山を探して、やさしい山を手始めに登り始めた。 豊かな大自然は、やさしく迎い入れてくれ、汗ばみながら登りつめた山頂では、すばらしい大展望が広がっている。日常生活ではありえない感動を覚えた。「今度は、どの山に登ろうか?」山の魅力に取りつかれたのは言うまでもない。
 
  徐々に、むつかしい山にも登り、岩場や谷筋の変化にも自信がついてきた。 初夏になれば、くじゅう連山をミヤマキリシマがピンクに染める。足元には、小さなイワカガミやマイヅルソウも咲いており、可憐な花たちとの出逢いもうれしい。「これは、何の花?」珍しい花に出逢うとワクワクするような、ときめき感も味わえる。登山の楽しさは、さらに広がってきた。
 
  やがて、ガイドブック「九州百名山」も手に入れ、県外の山にも足を延ばし始めた。 鹿児島の開聞岳を目の当たりにした時。「お〜、富士山だ〜」思わず、声を上げる。薩摩富士とも呼ばれ、その端正で美しい山姿は、ご当地名を拝した見事な富士山だ。
 

  となれば、大分にも豊後富士がある。九州百名山のひとつでもあり、大分のシンボル的な由布岳は、その美しい山姿から地元では、豊後富士とも呼ばれ、多くの人から親しまれている。 まさしく、大分の“おらが富士”という存在だ。特に南側からの姿がよく、雪の降った翌日は、本物の富士山を見るような気高さがある。

  由布岳に始めて登ったのは、2001年10月。登山を初めて30回目の山行日だった。 南側の正面登山口から、雄大な山姿を見ながら登り始める。

豊後富士・由布岳



  なだらかな牧草地を経て、明るい落葉樹林帯に変わる。40分ほどで、合野越に着き最初の休憩ポイント。合野越では、湯布院からの岳本コースも合わさり、山腹のジグザグコースが始まる。
 
  やがて樹林帯を抜け、展望が広がりながら、きつい上り坂になってきた。遠くに祖母山系やくじゅう連山が見えるので、景色を見るふりをして、ひと息入れながら登って行けばいい。 登り始めて約2時間30分。息を弾ませながらマタエに到着し、ひと休み。西峰と東峰の鞍部になるところ。ガイドブックや地形図を見ながら、位置を確かめる。「もう少しだ」左右の頂部を見ながら、ゾクゾクッとした緊張感を覚える。
 
 
 

 「はじめに、西峰に登ろう」マタエから左に進み、岩場に懸けられたクサリを握って、西峰のコースに取り付く。岩山をひとつ越え、障子戸と呼ばれる岩壁は、クサリにすがって横歩きでクリアしていく。 足がすくみながらも、この緊張感がたまらない。
 
  さらに続く岩場も、慎重に登り、斜度がゆるみながら西峰の頂上に到着。「お〜、すばらしい」1等三角点だけあって、360度の大パノラマが 広がっている。頂上気分を、心行くまで堪能する。
 
  マタエまで戻り、今度は東峰に向かう。 西峰のような岩場や緊張感はないが、ガレ石の急坂登りが続く。 やがて大きな岩間を抜けると、ゴツゴツとした岩の多い東峰に到着。頂上からの展望は、西峰と大差ないが、両峰に登った達成感に自己満足を覚える瞬間だ。

障子戸を横歩き

東峰の頂上




 
  下山は東コースを下り、寄生火山の日向岳を経て、登山口に降り着いた。 頂上からの景色と変化に富んだコースに、由布岳の素晴らしさを覚えた一日だった。
 
  この由布岳には、東コースやお鉢めぐりコースなどもあり、気分や季節によってアレンジできるのがいい。コースや季節を変え、年に数回のペースで登っている。
 
  春、牧草地の野焼きの後、うっすらと緑の芽吹きが始まり、サクラソウやエヒメアヤメが山裾を飾る。穏やかな春日和に誘われ、登山者が多くなり始める。 初夏、5月に山開きが行われ、夏山シーズンが始まる。6月になれば、山頂付近のミヤマキリシマが美しく、お鉢めぐりでオオヤマレンゲにも出逢える。
 
 

  夏、頂上の気温は下界より10℃涼しいが、やはり登り坂は暑さが厳しい。ヤマオダマキに出逢いながら登ろう。 秋、落葉樹林の紅葉が美しい。草花では、アキノキリンソウやヤマラッキョウがかわいい。 冬、まさか九州で、と思われるかもしれないが、由布岳にも大雪が降り、いつもと違った様子が楽しめる。
   
 
 

豊後富士・由布岳




 由布岳は、四季を通じていつでも楽しませてくれる山。すぐ近くにあり、まさに“おらが豊後富士”で、あり続けている。
 


2010年9月28日掲載



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