「わたしと富士山」


山梨県知事  山本 栄彦
         

 私は、知事に就任して以来、「森の国・水の国」である山梨県の美しい自然環境を「美力」、旺盛な自立心を持ち気力にみなぎる県民性を「民力」、それらが育んできた個性溢れる歴史、文化、産業を創り出してきた力を「創力」とし、この三つの力こそ山梨の地域資源、まさに「宝」として、地域づくりの原動力としているところであります。

 富士山は、日本最高峰であるばかりでなく、どこから見ても凛とした美しい姿をしており、この「美力」の代表的なものであります。

 また、周辺には沢山の洞窟、熔岩樹型などの貴重な地形や、原始林をはじめとした素晴らしい植生が広がっており、富士山に発する地下水は、山中湖、河口湖及び本栖湖をはじめとする富士五湖などの湧水となって現れ、人々に恵みを与えてきました。このように、富士山とその周辺の優れた自然環境は、山梨の「宝」として世界に誇れるものです。 

 私は、富士山には不思議な力があるように思えます。富士山の気高く美しい姿に疲れが癒され、また、富士山を見ると、何か幸せな気持ちになりますし、苦しいときや辛いときに見る富士は、自分を励ましてくれているように見えます。

 古来から、富士山は人の心を惹きつけてきました。河口湖畔にある冨士御室浅間神社に「勝山記」という古文書が伝わっています。この古文書の明応九年(一五〇〇年)の条に「富士山へ道者参ること限り無し」という記述があります。富士山には、噴火が鎮まった平安時代の終わり頃から修験者たちが登り始めたのですが、室町時代に入ると一般の人々も登り始めました。道者とは信仰のために富士山に登る人のことを言い、この記述がなされた時にはかなり多くの人々が登っていたことがうかがえ、富士山がどれだけ人々を魅了してきたかがよく分かると思います。

今日でも、吉田口登山道の起点にある北口本宮冨士浅間神社には、江戸時代に富士講から奉納された灯籠が参道に立ち並び、その荘厳な社殿や厳粛な社叢は富士山信仰の在りし日の姿を表し、昔日の道者達の足音や話し声が聞こえてくるような気がしてきます。

 また、古(いにしえ)の芸術家達の心に富士山は訴えかけ、万葉の昔から歌に詠まれ、さらに、千年以上も前から絵画に描かれています。

 富士山は、この優れた自然美と、そこから生まれてくる人を惹きつける力が、信仰と数多くの芸術作品を生み出し、日本人の心の拠り所ともなっている、まさに日本を代表する文化的景観であると思います。

 山梨県では、富士山を世界文化遺産に登録するため、静岡県や関係市町村との体制づくりを行って参りました。更に、今年度からは学術委員会を立ち上げ、富士山の普遍的な文化的価値を明らかにするなど、本格的な取り組みをはじめます。

 こうした登録に向けた取り組みは、文化財の保護はもとより、環境問題への意識を高揚させるということにも繋がります。

 富士山を世界文化遺産として登録することにより、このすばらしい富士山の環境を保全し、人類共通の財産として次の世代に引き継いでいくことは、私たちに課せられた使命であります。

 また、山梨県民が、富士山とその歴史的な遺産に誇りを持ち、「民力」と「創力」とを結集して富士山の魅力を生かし、活力のある地域づくりを行っていくことが大切であると思います。

 私は、日本を代表する名山、富士山の世界文化遺産への早期登録に向けて、皆様の御理解と御協力を頂きながら、全力で取り組んで参りたいと考えております。

 

ラベンダーの咲き誇る河口湖と富士山
本栖湖にうつる逆さ富士
三つ峠から見える富士山
富士遠景
 
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