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今回は国立環境研究所で環境毒性学を専門に研究されている遠山千春博士に環境ホルモンについて基本的なことを伺いました。
1. 環境ホルモンとは何でしょうか?
ホルモンとは、私たちの体内で作られ、主に血液を介して身体の隅々に運ばれる物質です。ホルモンごとに作用を示す臓器は決まっていて、その臓器を構成している細胞に取り込まれ、その特定のホルモンのみを結合する受容体と一体となって作用します。そしてきわめて微量で作用するのです。
このようなホルモンの生理的な作用を乱す物質が、環境ホルモンと呼ばれます。この物質は、環境中から体内に取り込まれる物質で、正式には、外因性内分泌撹乱化学物質とよばれますが、あまりに、舌をかみそうになる難しい名前なので、便宜的に「環境ホルモン」とも呼ばれるようになったのです。
ホルモンには、様々な種類がありますが、今日、環境ホルモンとして問題となっている物質は、女性ホルモン、男性ホルモン、甲状腺ホルモン(新陳代謝を促進する役割を持つ)この3種類のホルモンの作用を撹乱する物質です。
2. 環境ホルモンが社会的に注目を浴び、騒がれるようになったきっかけについて
1997年9月に出版された「奪われし未来」(翔永社)の発売がきっかけです。この本では原書副題の「ひとつの科学的探偵小説」に記載されているように、これまで個々の科学者が実験室や野外調査で観察をした個別の断片的情報(野生動物の生殖器官や生態に異常が発生しているというレポート)を、筆者が巧みにまとめ上げ、犯人ならぬある種の化学物質が性ホルモン機能の撹乱の原因物質であることを推理し、一般の読者にわかりやすく説明をしています。
3. 環境ホルモンが原因と思われる被害
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メスの巻き貝にオスの生殖器が発達(トリブチルスズが原因。主に船底の塗料に使われた)
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ローチというコイの一種のオスにメスの生殖器官が存在(アルキルフェノールが原因。洗剤に使われている) |
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DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)1971年以降製造禁止になっているが、殺虫剤、農薬として使われていた。この物質が体内で代謝されて出来るDDE
により、ワニのペニスの生育が遅れるとの報告があります。 |
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ヒトでは、成人男子の精子数がこの50年間で半減していることを示唆する報告
がありますが、結論は出ていません。 |
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ごく微量のダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニル類・電気製品の絶縁体などに使用されました。日本では1972年に生産が中止されたが、これまでに作られた変圧器など外に漏れない構造の機器には使用されています。
環境中に長年にわたり残留する性質が有ります)を取り込んだ母親から生まれた子供の知能の発育が一時的に遅れるとの報告がオランダから発表されています。
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4. 環境ホルモンによる母乳への汚染の現状
環境ホルモン作用を持つ農薬やダイオキシンなどが母乳中に含まれていることが話題になりました。ダイオキシンは脂肪に取り込まれやすいため、母乳の脂肪に蓄積され、授乳することにより赤ちゃんの体内に排出されます。赤ちゃんが体内に取り込む量は、一時的にですが現在の安全基準を超えます。
しかし、母乳を飲むことで体内に取り込まれるダイオキシンによる悪影響よりは、母乳を飲ませることによるメリット(初乳に免疫力がある、母子のスキンシップなど)のほうが大きいのです。従って、母乳が出るお母さんたちが母乳を処分して人工乳に代える必要はありません。
5. 環境ホルモンから身を守るために
私たちが生活を楽に豊かに暮らしたいという願いから、知らず知らずのうちに利便性を追求してきた結果、環境ホルモンと呼ばれる様々な化学物質を身の回りで使い、今、その問題が発生しているのです。例えば、農薬、殺虫剤、プラスチックです。また、プラスチックなど石油化学製品を焼却することにより、大気を汚染し、焼却灰が土壌を汚染しています。
それでは私たちはどうすべきでしょうか。私たち一人一人が自分達の生活を見直し、個人の努力で解決できることは実践することが必要です。しかし、国、自治体、あるいは企業などが、組織的に動いたほうが解決しやすい問題もあります。
例えば、廃棄物処理の仕組みやリサイクルや再利用の仕組みを整えること、あるいは、使用した後に処分がしやすい製品をあらかじめ製造することなどです。また、農薬などを減らし、野菜・果物なども形が悪かったり、あるいは少し虫食いでも良しとする、生活に対する考え方を変えていく取り組みも必要でしょう。
環境ホルモンから直ちに身を守る方策は、どこにもありません。だから、社会的にも問題となっているのです。とりあえずは、食物については偏食をしない(でリスクを分散する)こと。とりわけ、妊婦は脂身の多い部分や内臓などを避けるなど個人的努力で出来ることです。
また、自分自身は喫煙しないのはもちろんのこと、他人のたばこの煙も避けるべきでしょう。直接体内に環境ホルモンを取り込む生活をしながら、他の努力をしても効果が乏しいからです。
6. 遠山博士の専門分野である環境毒性学の研究について
国立環境研究所の環境健康に関する研究では、私たちの身の回りに存在する様々な有害因子がどのくらいの量でヒトの健康にどのような影響を引き起こすのか、逆にいえば、どの程度の量であれば安全とみなすことができるのかについて研究を行っています。
有害な物質など身の回りから排除することができればベストですが、実際には、有害な物質が結果として環境に出るにしても、何らかの恩恵を受けていることが多いからです。このことは自動車を例にとればおわかりいただけるでしょう。
環境有害因子として、環境ホルモン、ダイオキシンのほか、重金属(カドミウム、水銀、砒素など)、ディーゼル排ガスおよび、その微粒子、大気汚染ガス、電磁場、紫外線などが対象になります。
また、今までに知られていない物質も当然、対象となります。本来の対象はヒトですので、ヒトの集団を対処にした疫学研究を行います、ヒトを研究対象として人体実験は出来ないため、ヒトのモデルとして、マウスやラットなどの実験動物を用いた実験的研究を行っています。
この研究では、実験動物に起きる現象がヒトにも当てはまる普遍性の有る現象かどうか、その場合にはどのような共通のメカニズムで毒性が現れるか、あるいは、毒性の現われ方が違うのであればメカニズムのどこが異なるかを明らかにするのです。
毒性の現われ方を、どのような方法で解析をするかも、大事な研究テーマです、世界で通用する世界標準となる方法を新たに開発する仕事もあります。またこれらの方法を出来るだけ多くの研究室で、簡単に使えるような方法にすることも大事です。
最終的には、様々な実験条件で研究を行い、いろいろな方法を用いて、有害因子の量と影響との関係を調べて、安全基準を決める科学的根拠となるデータを提供するための仕事をしています。
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