--- 言葉の芽 Vol.11 --- 『ありがとうの芽』
 ある地区の公報の調べで、二十才までの青少年五千人を対象としたアンケート調査の項目の中に、「あなたは、人から何かしてもらったとき、『ありがとう』とちゃんと言っていますか?」というのがあった。
 はい、と答えた人が、なんと32%!! 約三割しかいない。次に、ときどき、と答えた人が40%。あまり言わないが17%。言わないが6%。無回答が残りを占める。
 個人的に、「言わない」と意識をもって答えた子について調べてみた。実におもしろいことが解かった。
 一つ、ここでありがとうって言えば、お母さんが喜ぶから。
 二つ、言おうとしてるのに、お母さんが横から「ありがとうはぁ」って言うから、言いたくなくなる。
 三つ、ありがとうって言った後の、大人たちの満足そうな顔をみると、結果、言わせられたような気にさせられるから。
 四つ、別にほしくもないものを持ってきて、何でありがとうって言わなきゃならないのか分からないから。
 五つ、ありがとうって言ったあと、自分自身で演じているようでしらけてしまう自分がいやだから。
 小学生四人、中学生二人、高校生八人、大学生四人に聞いただけで、この五つの特徴が出た。ぼくとの人間関係のため、正直に多少きつく感じる答えでも、安心して話してくれた。帰り際、「今日は、他に用事があったかもしれんのに、俺につきあってくれて、ありがとさん」って言ったら、「おごってくれて、ありがとう」って返してくれたので、「おい、今のありがとうは、心から?」って聞いたら、「あったりまえやん!!」と言って帰っていった。
 なぜ、血もつながっていないぼくには心から言ってくれて、自分たちの親や周りの大人たちには、心からありがとうって言えないのか、新たな問いを残された。
 ぼくに、「あったりまえやん!!」というセリフとして、演じているかもしれない。だが、それを疑えば、ぼく自身、今後、心からありがとうって言えなくなってしまうような気がしたので、疑うことはやめた。
 ふと、ガキの頃、おじいちゃんとレンゲの蜜を吸っていたときの話を思い出した。
 「おじいちゃん、あのさ、このレンゲの蜜って、花の血ィーみたいなもん?」
 「おうそうじゃ。人間もなぁ、することしとらんと蜜にならんと毒になる!!」
 「ええ!! どういうことぉ?」
 「んー、そやのぉ、人としてあたりまえのことや。例えば、あいさつ。こんにちはとか、ありがとうをちゃんと言うことや。
 「そんなん、楽勝や。おれ、できるもん」
 「そうか、ほなあとは、これからどんなときも、どんな人にも、言い続けていくこっちゃ。おじいちゃんと約束してくれるかぁ?」
 「うん、あったりまえやん、約束するぅ」
 「ほうか、おおきにのぉ」(※おおきに=ありがとうの方言)
 ぼくのコラムを読んでくれて、本当にありがとうございます(笑)。
 
  ブックドクター・あきひろ