--- 言葉の芽 Vol.54 「快眠の芽」

 日本は現在、子どもから大人まで時間に追われるほど忙しい日々が当たり前になった。
 ということは、幼い子ども時代から人生の3分の1は睡眠といわれる日々を送れない可能性が出てきた。この時期の受験生は1日の6分の1から8分の1の時間しか睡眠をとっていない子もいるだろう。多くのお父さんは忙しい日々を送る中で、6分の1の睡眠を何十年も続けているうちに、目覚まし時計などに頼らなくてもだいたい4時間くらい寝ると自然に目が覚めてしまう体ができあがったかもしれない。

 小学校では、早寝早起き朝ごはんを合言葉(スローガン)に、各学校区でさかんに呼びかけ、実践しようとしている。
 僕があちこちの子どもたちに、何時間くらい寝てるの?と聞いた感じでは、だいたい8時間くらいなので、小学生の子どもたちは3分の1の睡眠をとっているように見える。
 だが、合言葉どおりの早寝ではなさそうだし、8時間ぐっすり眠っているのかというと、そうではないのである。つまり、8時間快眠ではないわけ。
 布団に入ってからなかなか寝つけなかったり、朝までに何度も起きたりする(体は横になったまま目が覚めてくる状態)らしい。
 だから結果、快眠をしている時間は?と問えば、4時間半から6時間くらいになってしまう。

 僕が小学校のころは学校から帰ってきてすぐ、グローブとバットをもって日がくれるまで遊んで帰ってきて、メシ食って、風呂に飛びこんで、冷たいジュースを飲んで寝たら、朝、オカンが何度も起こしにきても目が覚めないほどグッスリ快眠の日々だった。ほんとにグッスリ睡眠だったので、腹筋もしっかり緩み、目覚めたときに、さまざまな地形の地図がなぜか描かれていることがよくあった(爆笑)。

 大人でも、何か大きな仕事を無事やりとげたときの睡眠や、それまでの苦労や努力がむくわれた日の夜は、たとえ3時間の睡眠であったとしても、その3時間は至福に包まれたグッスリ快眠となって、普段6時間寝て起きたときより、よほどグッスリ眠れたときのような、かつてタップリ寝て起きたときのような、それでいて、目覚めも良く、しっかりスッキリしているってことがあると思う。
 あのグッスリ快眠ほど、時間に追われた日々に、しっかりスッキリあてはまるものはない。

 親として子どもを早く寝かせるのは良いことのように思えるが、こんな世であるから、ときとして親の都合で夜おそくまで子に起きていてもらった方が楽な日も生じたり、わが子のクラブの遠征で夜を通してバスでの移動が発生したりする可能性が増えてもいいように、自分自身も含め、幅の広い睡眠に対する解釈と実践を意識していただきたいと思う。
 さしあたって、家の中でわが子に寝ぎわにかける言葉を「早く寝なさい!」から「眠たくなるまで起きてていいけど、そのかわり朝までグッスリ寝てね(ハート)」とかに変えてみてはいかがでしょう(笑)。
 意外に親の方が、早く寝かさなきゃという意識から解放され、自らもグッスリ快眠が増えるかもしれない。
 そうすると、親も子も“寝た間は仏”のことわざどおり、日がのぼってくるまで罪のない寝顔のままいられるんじゃないかなぁ。
 この寝ぎわの親のやわらかな声かけこそ、親子たがいの快眠の芽となるのさ。
 けっして、今から安心して寝てもらう子どもに、緊張してなかなか眠れなくなるような、ころし文句はいわないように(笑)。

 




ブックドクター・あきひろ