--- 言葉の芽 Vol.55 「燃犀の芽」

 燃犀(ねんさい)とは、頭の働きが鋭くて何でも即座に判断できる様子をいう。(新明解国語辞典 第六版にて)
あるビジネス雑誌を読んでいたら久しぶりにこの燃犀という言葉が目にとびこんできた。

この言葉に初めて出逢ったときのことをすぐ思い出した。大学1年生のとき、経営学の学期末のテストで出逢ったのだ。穴うめ問題だったのだが、もちろん僕は穴をうめられなかった(笑)。

 そこで経営学の先生は仲が良かったので、その日の夜に先生の家に遊びに行って答え合わせをしたのだ。この答え合わせで単位を落とすか落とさないか判断したかった。
 答え合わせをして単位を落としていないことは判ったが、先生にふと、この燃犀とはどういう意味か聞いたのだ。そしたら先生が「杉本、いい単語に興味を持ったなぁ」といって喜ばれ、詳しく教えてやろうと言いだした。
 先生は大好きなウイスキーに大きめの氷を2つ入れて自分の部屋に入っていった。先生の部屋でテーブルをはさんで向かい合わせにすわると先生が話しはじめた。

 「燃犀なる頭脳の持ち主こそ経営者に最もふさわしい。だが多くの経営者は自らが燃犀な頭を持っていない。ではどうするか。燃犀なる頭脳の持ち主を見つけ出す目を養わなければならない。ではどうやって見つけ出すかというと賢者の知恵をかりる。杉本、おまえもこの格言ぐらいは知っとるやろ?“類は友を呼ぶ”というやつ。この知恵をかりて実践する。
 つまり、燃犀という字は、燃えるという字と、犀という字の組み合わせや。いつも夢をつかむために燃えてるヤツ、志しをもって燃えてるヤツ、野心に燃えててもかめへん、とにかく燃えとらんことには燃えとるヤツが寄って来ん。
 寄ってきたら次に犀や。動物のサイは、そのナリとは裏腹に危機能力に優れ、火を怖がらず、水になじみ、木をけずり、金をほりあて、土を興すと云われてる。その犀を大事にするヤツが“燃犀なる者”や。
 犀を大事にするとは、夢をつかむことに燃えながら、日々、火を扱ってこそよばれることのできる食事を大事にし、水を大事にし、木を扱ってできてる家を大事にし、お金を1円でも大事にし、土は、地に足をつけて遊んだり、大地をよごさず大事にすることを指す。
 経営者やリーダーたる者、みな何かに燃える。でもそれだけでは培われたものが足りん。燃(ねん)あって犀(さい)宿してこそリーダーからトップに変わっていく。トップはムダをムダと思わず、即ち人がやってもムダだと思っていることへの頭の働きが鋭いため、ムダから活を生む。さらに情報(しらせ)・財・待機・縁・タイミング・遊・動・静・潔さに最後に堂々と礼節をもって判断し決めていく。
 これができる者を燃犀なる者というんや」
 この先生はウイスキーをゴクッと飲むとさらにこう言った。

 「いくら頭が良くてもトップにはなれん。せいぜいトップのブレーンどまりやろな。トップは感性が犀(サイ)の角のごとく鋭いため何につけても興味をしめし、判るまで喰らいつく。そして判れば笑うことのできる者でないと、その笑い声につられ、人も金も縁も集まってくる。 集まればみんなにトップの念(おも)いが燃え広がる。これまさに燃犀者。歴史上、その道に突然現れるといわれる燃犀者の共通点を一言で言うと、
 “憎みきれんほどのおおらかさ”
をもったヤツが多いから不思議やなぁ。」

 幼いころから、何かにつけ興味をしめす子は、ひょっとして、燃犀の芽がもう発芽しだしはじめているのかも(笑)

 




ブックドクター・あきひろ