屋久島の春から初夏(しょか)の樹木(じゅもく)の花

前回の「屋久島のふしぎを訪ねて」では、屋久杉のふしぎについてご紹介しました。そのとき、屋久杉が切株の上や倒れた木の上で育ちやすいことを説明しました。
屋久島は雨がたくさんふります。そのため切株やたおれた木にはこけが生えます。こけの上では地上よりも生育するのに必要な水と光をうけやすいことから、屋久杉はこけの上を生育の場所として芽(め)を出し、しっかりとした根を地面におろしながら大きく成長し、数千年も長生きしているようです。

また500年くらいまえから島の人々が屋久杉を年貢(ねんぐ:昔のぜいきんのこと)などにつかうためにきりました。それでも、そのあとに数百年の時間をかけてふたたび大きく育ちりっぱな森に生まれかわったことも本当にすごいことですね。

今回は、色々な種類の植物の中から春から初夏にさく樹木(木)の花についてふれてみたいと思います。

屋久島には、低いところから高いところまで約2,000mの標高差があります。一番低いのは標高0mの海岸です。そして一番高いところは、九州で一番高い山である標高約2,000mの宮之浦岳(みやのうらだけ)(※国土地理院の地図で場所をご確認いただけます。)です。標高が高いくなるにしたがい、気温は下がっていきます。このように標高差のある屋久島には、北海道に分布している植物も生育していると言われています。例えば、年間平均気温(ねんかんへいきんきおん)をみれば、宮之浦岳山頂では北海道札幌市(ほっかいどうさつぽろし)と同じくらいです。また、屋久島自然休養林(やくしましぜんきゅうようりん)のヤクスギランドがある標高1,000mでは東京都(とうきょうと)と同じくらいの気温です。標高の低い海岸部や平地と、標高の高い宮之浦山頂との標高差による気温の温度差は約12度もあるようです。

また、屋久島には1,000mをこえる山が数多くあり近くを暖流(温度がひかくてきあたたかい海水のながれ)がちかくを流れているえいきょうを受けて雨がたくさんふります。
このような屋久島のとくちょうから、およそ1,600種にも及ぶいろんな種類の植物が生育していると言われています。

初夏となればヤクシマシャクナゲの花の時季となります。例年、屋久島の中心部にあたる奥岳地帯(おくだけちたい)と呼ばれる山岳地帯における開花シーズンにあわせてパトロールをおこないます。今年も5月23日から24日にかけて山に泊ってパトロールを行いました。その状況とあわせて、屋久島の春から初夏の樹木の代表的な花として、ヤマザクラ、ヤクシマミツバツツジ、ハイノキ、ヤクシマシャクナゲ、ヤマボウシ、リョウブについて実際に写真でご紹介することにしましよう。

それでは、屋久島の自然をみてみましょう!

※国土地理院の地図で場所をご確認いただけます。

ヤマザクラ(4月8日撮影(さつえい))

屋久島自然休養林の白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)の太鼓岩(たいこいわ)、標高約1,000m地点から、小杉谷(こすぎだに)の森林軌道(しんりんきどう)という木材をはこぶための鉄道と縄文杉登山道(とざんどう)を眺めたところです。ヤマザクラのピンク色と木々の新しい芽や葉っぱのみどりとの色あいがあざやかですね。

 

ヤクシマミツバツツジ(昨年5月11日撮影)

屋久島特有の花こう岩(かこうがん)の岩石にしがみついて、ピンク色のヤクシマミツバツツジが咲いていました。標高約1,700mの投石平(なげいしだいら)から黒味岳(くろみだけ)の南東斜面(なんとうしゃめん)をうつしています。
周囲には、ヤクシマシャクナゲ、タンナサワフタギ、シキミ、少し赤い色をしたヤマボウシなどが見られます。(ヤマボウシの葉は、あとの写真にあるように日がたつと緑色に変化します。)

縄文杉とハイノキ(5月15日撮影)

縄文杉が生育している標高1,300m地点でハイノキの小さい白い色のかれんな花が満開となっていました。
ハイノキは、4月下旬頃から1月ほどかけて標高の低いところから高いところへ花のひらく時期がうつりかわっていきます。

屋久杉に着生したヤクシマシャクナゲ
(5月24日撮影)

標高約1,700m地点で屋久杉の白骨樹(はっこつじゅ)の高さ約8mのところにくっついて芽が出て育っているヤクシマシャクナゲの花が咲いている状況です。このように屋久杉にくっついて育成している木を着生樹(ちゃくせいじゅ)とよびます。ほかにも数種類が見られます。

ヤクシマシャクナゲ(5月24日撮影)

宮之浦岳と永田岳(ながただけ)の中間地点、標高は約1,800m。永田岳登山道わきの花の咲いている状況です。写真の奧の方は、森林限界地帯(しんりんげんかいちたい)といって、この標高より高いところには木は育ちません。この森林限界地帯には、せたけの低い屋久杉とヤクシマダケ(べつ名:ヤクザサ)が育っています。

   また、ヤクシマシャクナゲは、約1,900mの高い標高地から約1,000mの低い標高地へと1月程度の時間をかけて花の咲く場所が下がっていきます。
多くの草木は、低いところから高いところへと花の咲く場所は上がっていくのですが、そう考えればふしぎですね。

ヤマボウシとリョウブ(昨年6月29日撮影)

栗生(くりお)歩道、標高約1,600m地点、風衝地(ふうしょうち)といって、かぜのあたりかたがつよいところの岩場に生育しているヤマボウシの白色(ややピンク色もあり)の花と、左の緑色をしたつぼみのリョウブの花が咲いています。リョウブの花は、今はつぼみで緑色ですが、満開の時期には変色して白い色の花となります。

風衝地では、木の高さがひくく丈夫(じょうぶ)で、強い風などにも負けないように生育しているすがたを見ると、植物の生命力(せいめいりょく)のすごさに感動をおぼえ、生きるゆうきをいただかれる人も多いのではないかと思えます。