世界自然遺産地域等のパトロール

 屋久島森林環境保全センターの業務については、第1回の「屋久島ってどんなところ?」の中で、世界自然遺産地域など屋久島の貴重な植物や自然の保全、管理、普及教育関係などの仕事に携わっているとご紹介しました。
今回は、保全管理に関する仕事の一つ、世界自然遺産地域等のパトロールについてふれてみることにしましょう。

屋久島には九州の最高峰である宮之浦岳(標高1,936m)をはじめとして第8位までの山があり、高い山が連なっています。そのため、地形も険しく、傾斜も急なことから、国有林のパトロールをするための登山も大変苦労しています。

天然林(てんねんりん)は二酸化炭素(にさんかたんそ)を吸収するといわれ、天然林を確保することが地球の温暖化(おんだんか)を防ぐ対策の一つにもなります。そのためには人が立ち入って植物を踏みつけるなどして植物が枯れたり、なくなったり、さらにそのことによって森林の機能・働きが低下したりすることを防がなければいけません。
国有林のパトロールは、これまで職員によって実行してましたが、今年度から森林保護員(以下、グリーンサポートスタッフといいます)も募集し、世界自然遺産地域や日本百名山等の入り込み者・登山者が集中する山岳部を対象に、よりきめ細かにパトロールを行い保全管理などの防止対策を実施しています。
グリーンサポートスタッフは、いずれも屋久島の自然に引きつけられて島に来られた方々で、30代半ばが4名(男性3名・女性1名)。島で生活しながら、自然の保全管理のためのパトロールに活躍(かつやく)いただいているところです。

 今回の世界自然遺産地域等のパトロールは8月27(日)〜28日(月)にかけて行われ、山で宿泊する事になりました。パトロールのルートを地図で示しました。

 一日目は、当保全センターから登山口(標高1,000m)まで車で約1時間、そこから山泊用の少々重たい荷物を背負い、約3時間登山して縄文杉(標高1,300m)にたどり着きました。ここから、宿泊する新高塚小屋(標高1,470m)まで約1時間のパトロールとなりました。
縄文杉には植生を回復させるため、様々な工夫が見られます。
縄文杉の根が踏み荒らされないように、平成8年に設置された展望デッキです。
この日は約300名の登山客が訪れていました。これまでの最高は今年5月4日の約920名です。
縄文杉へは、8〜10時間の登山となりますので、現地には10時頃〜1時半頃の時間帯に登山者が集中し、多いときには展望デッキ・登山道などが大変混雑することになります。
降雨による表面土壌の流出を防ぐために、縄文杉の根元には小枝を編んで作った柵が敷かれています。
写真右下見える動物はヤクシカです。


 宿泊した新高塚小屋は島の中央部に位置します。淀川登山口から宮之浦岳、縄文杉、ウイルソン株、小杉谷、荒川登山口への登山コースにあり、約40名収容の山泊施設として重要な小屋となっています。
この日の宿泊者数は、新潟県からの学生7名のパーティなど20名余で、夏休みの終わりとなっているせいか少ない感じがしました。

これまでも年に3〜4回は山泊していたのですが、標高の高い新高塚小屋で深夜3時過ぎから30分程度、稲光(いなびかり)と雷(かみなり)を初めて体験し、雷の音のすごさと稲光のこわさを体感することになりました。満天の星空の下、山泊を楽しんだこともあったのに、などと思いながら・・・。
それでも心配していた天候は、幸い明け方には雨も上がり、6時頃には出発することができました。

 二日目は新高塚小屋を出発し、途中、第二展望台では驚きの光景を目にしました。

遠くにかすかに見えるのは九州本土です。左に開聞岳、中央に桜島、そして霧島連峰、稲尾岳などです。肉眼では薩摩半島の西の端から佐多岬まで、もっとはっきりと確認できました。こんな広い範囲を眺望できたことは驚きの発見でした。
第二展望台からみた宮之浦岳です。山頂へと登山道が通じています。
右手方向は永田岳へとつながります。 標高1,600mを超えると ※3風衝低木林(ふうしょうていぼくりん)から森林限界域になり、ヤクシマダケやヤクシマシャクナゲなどの草原になっています。


屋久島の ※1三岳(みたけ)の一つ、永田岳(標高1,886m)では「ヤクシマリンドウ」の開花を満喫しました。

屋久島にだけ生育するヤクシマリンドウ。直射日光が十分に当たらないと開かないそうですが、永田岳山頂の岩のすきまで咲き誇っていました。 屋久島特有の高山植物、ヤクシマホツツジ。標高1,600mを超える日当たりのよい岩場に咲いています。ヤクスギに着生することもあります。

  その後、※2大川の滝方面の大川林道へむけて約7時間かけて縦走し、ようやく林道で職員の出迎えを受け、当センターまで車で約2時間かけて帰所しました。

  パトロールの結果としては、縄文杉の展望デッキの周辺ではお菓子の包み紙、登山道周辺ではペットボトルが確認され、いずれも回収しましたが、一部の登山者のマナー違反があった他は、高山植物の盗採などむ含めて特に異常はなく、登山者への指導なども特にありませんでした。
登山マナーについては、昨年5月に屋久島のシンボルでもある縄文杉の樹皮(木の皮)がはがされるという心ない悪戯(いたずら)が発生し、衝撃を受けたところでした。
そういったことから、世界遺産の島、屋久島を訪れられる皆さんには、登山マナーの一層の向上を特に切望するところです。
皆さんも、レクリエーションなどで登山される時には、自然や動物などを大切にしてくださいね。

※1 三岳(みたけ)・・・ 宮之浦岳(標高1,936m)・永田岳(標高1,886m)・黒味岳(標高1,831m)を合わせて三岳といいます。
※2 大川の滝・・・・・・  西部地域に位置する落差88mの滝。日本の滝百選に指定されています。
※3 風衝低木林・・・・
 (ふうしょうていぼくりん)
標高の高いところでは、季節風などの強風・低温などで生育環境が厳しいことから、樹木が低木でしか生育できない林