屋久杉登山とグリーンサポートスタッフ

 近年、全国的に登山者の数が急増しています。特に、より自然のままに近く、さまざまな種類の生態系をもつ国が管理する森林には、利用者が集中します。そのため植物があらされ、森林が弱っていきます。そのため森林を保護するために今年からグリーンサポートスタッフの方々が森林の保護行うようになりました。
 
  前回お話したとおり私たち職員も森林パトロールをしてるのですが、屋久島でも今年から新たにグリーンサポートスタッフの方々と一緒に森林の保護に取り組むようになりました。

  グリーンサポートスタッフの方々は登山者が特に多い土日や祝日、登山のピーク時に山に入ります。そして森林パトロールを行いながら登山者へマナーの指導をしたりゴミの回収なども行っています。

ごみ 森林パトロールの案内
なかなか無くなることのない
登山者の出すゴミ
森林パトロール(グリーンサポートスタッフの取組)についての案内掲示物

  夏休みは、屋久島にきて縄文杉登山を楽しむ人の数がゴールデンウィークに次いで多い時期です。今回は夏休み中、荒川登山口からスタートした登山者に同行して実施した森林パトロールの状況と登山の様子などにふれてみたいと思います。
荒川登山口から屋久杉までの道のり

 荒川登山口から登山するときは、昔ヤクスギなどの木材を山から里へ運んだ森林鉄道の軌道と山中の登山道を片道4〜5時間をかけて苦労をしながら歩いて縄文杉と対面することになります。

早朝の荒川登山口往復で8〜10時間の道のりですから、登山の出発は早朝になります。荒川登山口は縄文杉の日帰り登山の出発地となっていて、登山者が集中するラッシュの時間帯があります。登山者は早い人では夜明けの5時頃から明かりをともして出発しますし、遅くても7時頃までには出発することになります。登山者はここまで登山バスやレンタカーでやってきます。

 荒川口登山道から出発するとすぐに森林鉄道の軌道を登山道として利用することになります。森林鉄道は、現在でも国有林の管理などの仕事や登山者の遭難救助(そうなんきゅうじょ)、山岳部の避難小屋(ひなんごや)のトイレの清掃や維持(いじ)などのだいじな役割に利用されています。
 その森林軌道を登山道として利用している登山者の皆様には、森林鉄道を走行するモーターカー(機関車みたいな小型乗用車)や機関車やトロッコ(木材を積んで運ぶ自走式の運搬車)などに十分気をつけて事故のないようにして歩いていただくことが大切になります。また走行する機関車等の運転手は、軌道のカーブでは事前にクラクションを鳴らしながら登山者の皆様に十分気をつけて、事故がないように安全運行(あんぜんうんこう)に努めています。

東屋と鉄道軌道
休憩を終えて鉄道軌道に戻る登山者たち。

 荒川登山口から森林軌道を歩いて50分ほどで、小杉谷集落跡地(こすぎだにしゅうらくあとち)にあるヤクスギの平屋葺き(ひらやぶき:むかし使っていたヤクスギの板をかわらのかわり使ったやね)の休憩所に到着します。 ここは、昭和45年の夏まで小杉谷製品事業所(樹木をきって木材として里まではこんだ作業をするところ)の集落があったところで、30周年の記念行事として屋久島の歴史と時代の移り変わりを体験できるように教育的利用のための歴史資料展示棟として、また、ベンチなどを整備して休憩所として利用できるようになっています。

大株歩道入口トイレ休憩
写真奥の建物がトイレ。ここからいよいよ
本格的な登山が始まります。

  小杉谷の休憩所から森林軌道を歩いて1時間30分ほどで、大株歩道の登山口に到着します。ここでトイレの用を済ませてから登山することになりますが、これからが縄文杉への本格的な登山となります。

  大株歩道登山口から歩いて30分ほどでウイルソン株に到着します。
ウィルソン株は、推定2,000年の樹齢で伐採され約300年後の大正3年(1,914年)アメリカの植物学者ウィルソン博士がヤクスギの大株として世に紹介されたことから、その名が付けられたものです。

ウィルソン株
写真左上奥に見えるのがウィルソン株。
近くを歩く人を見るとその大きさに驚かされます。
その大きさだけでなくウィルソン株を覆う苔が歴史を
物語っています。

 ここは、標高約1,000mに位置し、周囲の植物の大きさや屋久島特有の苔(こけ)などの様子も変化してきて、森林浴(しんりんよく:人の身体や心などがいやされて健康的になる森のはたらき)の効果も体感できます。また約500年前から島民がヤクスギをきって利用してきた歴史とその切株や残材(使わずに山にのこされたヤクスギなど)から、ヤクスギと人とが共存(きょうぞん)している時代の移り変わりや変化の様子を目にすることができます。


水場、狭い木道
 

 ウィルソン株から40分ほど歩くと水場に到着します。登山道は、世界自然遺産に登録されてから登山者が急増し、屋久島の山岳部における多量の降雨量があることから、木道及び木製階段等で整備してあります。しかし、歩道の幅員が狭く登り優先でお互いが譲り合っての登山となりますので、歩道で譲り合う際や休憩時なども歩道からはずれて林内に立ち入ることは禁止行為としてあります。

  ここからさらに、縄文杉までには、40分ほどかかります。途中、大王杉(だいおうすぎ)や夫婦杉(みょうとすぎ)を見ながら登山を続けます。 (夫婦杉については、第2回をご覧ください。

 いよいよ縄文杉です。

展望台への階段 縄文杉と展望デッキ
展望台デッキへの階段 人だかりができる縄文杉の展望デッキ。

  縄文杉が昭和41年(1,966年)に地元紙で世に紹介されてから、登山者が急増し縄文杉 周辺の根本の踏圧(とうあつ:人の重さで土をあっぱくすること)や土壌(つち)の流出などの被害を生じ、縄文杉の樹勢(じゅせい:いきいきと生きるいきおい)への影響が心配されことから、周辺土壌の改良と、さらには縄文杉周辺への立ち入りを規制するために、平成8年春に縄文杉から約10m離れて展望デッキを設置しました。
展望デッキへの階段は一方通行で、展望デッキには黄色ペイントで標示して通路を誘導していますが、今年のゴールデンウィーク時には日帰り登山を対象とした3時間ほどの時間帯に900名以上の登山者が集中し大変混雑しました。
縄文杉
 

 屋久島の奧岳の山中にそびえる縄文杉に対面された皆さんは、2千年以上とも7千2百年とも言われる長い間生き続けている姿とその大きさなどで周囲を圧倒する神々しい(こうごうしい:とうとくておごそか)姿への驚きと、念願がかなって感動される様子から、それまでの疲れなどもいっぺんに忘れ喜色満面(きしょくまんめん:よろこびにみちあふれたかお)で生気(せいき:いきいきとした気力)がよみがえると言った様子にいっぺんに変化されます。 このことは、現在年間の縄文杉への登山者数は5万人ほどと言われていますが、子供から老人までの皆さんに共通することのようです。縄文杉は、それだけ人間を引きつける魅力(みりょく)や生きる力を与えてくれる力をもっているのです。

 さて、ここまで登山の様子を見てきましたが、これだけ大勢の方々が毎年いらっしゃるので、屋久島の自然環境の保護の大切さについてわかっていただけたでしょうか。

 屋久島では、屋久島の自然を守るために「屋久島山岳部利用対策協議会」(さんがくぶりようたいさくきょうぎかい)というルールをつくる組織を設けています。この屋久島山岳部利用対策協議会では、「登山 者のためのマナーガイド」を作成し世界遺産の島屋久島の自然を守るために取り組んで努力しています。しかし、残念なことに今回も登山者が残したゴミを回収しています。 国有林では、登山者一人ひとりが自然をこわさない・傷めない気持ちを強くもって次の世代に引き継げるよう、グリーンサポートスタッフの方々と森林パトロールなどをおこないながら登山者のマナーの向上に取組んでいます。