縄文杉など屋久杉の保全対策について

 秋の観光シーズンも終わり、観光客、登山者等の入り込み状況もシーズンオフとなっています。種子屋久観光連絡協議会による観光、登山等での屋久島への入り込み客数の調査によると、平成17年度は約32万人もの人が屋久島を訪れたと報告されています。そして屋久島のシンボルとなっている縄文杉には、そのうち約5万人の登山者が集中していると推定されています。今回は屋久島を訪れる客数の増加とそれにともなう自然への影響と対策について触れます。

 人々を魅了する縄文杉と増加する観光客・登山者による生態系への影響

 縄文杉は、昭和41年(1966年)5月に地元上屋久町役場の皆さんが、それまで最大の屋久杉と言われていた「大王杉」の所から高塚の避難小屋への登山道の調査を行っていたときに確認されました。そして翌年元旦、地元の南日本新聞のトップに「生き続ける縄文の春、推定樹齢4,000年、発見された大屋久杉」のタイトルで世に紹介されました。
  そして、平成5年12月に屋久島の貴重な自然が国際的に評価されて「世界自然遺産」に指定されたことをきっかけに登山者がそれまでの150%も増加しています。

 このような背景から、近年大勢の登山者が、屋久島の樹齢7,200年とも言われる縄文杉のロマン(夢、ぼうけんみたいな)や、神々しい(神様みたいな)ふんいきに引き付けられて縄文杉を訪れています。

 そのため、登山者による踏み荒らしや屋久島特有の山岳部における多量の降雨等があいまって(あわさって)、登山道の浸食や周辺土壌の流失等が進んでいます。その結果、特に樹勢(木の生育じょうたい、木のいきおい)のおとろえや苔(こけ)植物等の消滅(しょうめつ:きえてほろびる、なくなること)などといった生態系(生き物や自然のけいかんなど)への悪い影響が見られるようになっています。

 縄文杉の保全対策について

 このような登山者の増加による自然への悪い影響から木を守るために、林野庁(当センター)では、日本樹木医会鹿児島県支部の樹木医、学識経験者等の方々に集まってもらい、どうしたら縄文杉が元気を取り戻すことができるかを話し合ってもらいました。そして専門家の方々が報告してくれた具体的な樹勢回復の方法をもとに、平成9年度から現地で各種の保全対策事業を行ってきました。

 それらの対策のうちの代表的なものとして、10年前(平成8年3月)に縄文杉に展望デッキを設置して、立ち入り規制を行いました。登山者の方々には、約10m離れたところに設置したデッキから縄文杉を観察していただいています。 直接手を触れることはできませんが、そのことで縄文杉の表面も以前手で触れてみがけて赤々としていたときから、今では自然の状態の色に回復してきています。

紀元杉の木製デッキ

木製展望デッキからみた縄文杉
縄文杉から約10m離れて木製展望デッキを設置し、立ち入り規制措置をとっています。
  平成9年以降、検討会を開催して縄文杉周辺の植生及び土壌調査を実施しています。具体的には、土壌改良工(花崗岩が風化して砂状になったマサド、木炭チップ(小片)などを使い周辺土壌を入れ替えて改良することなど)、編柵工(表面土壌の流失防止対策として、灌木(小さい木)や枝を使ってさくをあむこと)、植栽工(鹿の食害に強いハイノキ、シキミなど)などを実施しています。

仏陀杉の木製デッキ

縄文杉への登山者は、荒川登山口から片道約4〜5時間を要して目指す縄文杉と対面し「縄文杉に対面でき目標を達成した充実感となって登山の疲れも消え、満面笑みに満ちあふれた表情」を全員と言っていいほどそう見えます。
縄文杉は、人々に勇気と生命の力などを与えるなど神々しいことを思うとすごいですね。

仏陀杉の木製デッキ

縄文杉の展望デッキへの階段(周回方式で上下別階段)
登山者が集中する日には、滞在可能時間帯(10時頃から13時半頃)は人で混雑することになります。
これまで確認している最多の日は、今年5月4日に約950名を記録しています。

 このような対策を取っているにも関わらず、平成17年5月、縄文杉の皮を剥離(はくり:かわをはぐこと)するというあってはならないことが発生しました。この心ない悪戯(いたずら)については全国で報道なされたところであり、本当に悲しい思いをすることになってしまいました。
世界遺産は、地球上の人民の遺産となり、国及び国民は指定された遺産を後世に保全していく責任を負うことになっています。また、国内の色々な世界遺産に、悪戯が繰り返されているニュースを聞く度に心が痛みますね。
 縄文杉の樹皮の修復作業が順調にいっても元には戻らないことを認識していただきたいと思いますし、今できる必要な保全対策等を続けて世界遺産等を次代へ引き継いでいきたいと願っています。

  その他の屋久杉の保全対策について

 縄文杉だけでなく、他の屋久杉についても保全対策を行っています。
  安房林道沿線の「紀元杉」、ヤクスギランドの「仏陀杉」、白谷雲水峡の「弥生杉」などの屋久杉についても、展望デッキや樹勢回復措置を行っています。

紀元杉の木製デッキ

紀元杉の木製デッキ
平成8年度に地形的に展望デッキのスペースが狭いことから紀元杉を周回する観察用木製階段及び木製デッキの設置と日本樹木医会鹿児島県支部の樹木医による樹勢診断を実施しています。
平成9年度に編柵工、土壌改良工、麻マットでの被覆などを実施しています。

仏陀杉の木製デッキ

仏陀杉の木製デッキ
平成6年度に木製展望デッキ設置しています。
平成8年度に日本樹木医会鹿児島県支部の樹木医 による樹勢診断の実施をしています。
平成9年度に編柵工、土壌改良工、麻マットでの被覆、排水工などを実施しています。

 屋久島の積雪について

 最後に少しだけ、今の時期の屋久島のお話をします。
  山岳部では、12月最初の週末に初雪が降っています。今月6日の日に、永田岳(1,886m)登山道周辺の植生回復事業実行箇所の確認とパトロールに行って来ましたが、標高1,600mの鹿之沢小屋周辺には残雪が見られ、本年初めての初雪を踏みしめての登山となりました。昨年は、12月はじめには、相当の積雪がありました。いよいよ南の屋久島も厳しい冬の季節に入っていきます。屋久島で、2m以上の積雪なんて信じられませんよね? でも、本当です。

  
鹿之沢小屋

鹿之沢小屋
奧岳では、12月初めに積雪があり、今月6日に永田岳登山道周辺の植生回復事業実行箇所の確認とパトロール登山した際、鹿之沢小屋周辺には残雪が見られました。

永田岳登山道

永田岳登山道
標高約1,700m付近の永田岳登山道の状況です。一帯は、森林限界域となっており主にヤクシマザサ(ヤクザサ)、ヤクシマシャクナゲ、アセビなどの植生となっています。パトロール時には、このヤクザサの中でヤクシカが顔を出してヤクザサを食べていたり、ヤクザルが木の上や岩の上で木の実や葉っぱなどを食べている姿を永田岳(1,886m)の山頂付近まで目にすることがあります。ですから、ヤクシカやヤクザルは、島内全域に生息していることが分かります。

厳寒期の宮之浦岳の積雪

厳寒期の宮之浦岳の積雪
写真中央、九州最高峰宮之浦岳(1,936m)の積雪の状況(昨年12月20日撮影)です。
奧岳では、2m以上もの積雪があると言うことも理解できますね。