冬を前に



今週末、僕はお昼を持って国立公園へ向かった。自然センターに車を止め、林道を入るとすぐに何かがこちらを見ているのに気付いた。立ち止まり、首にかけていた双眼鏡(そうがんきょう)をのぞくと、そこには丸々と太ったタヌキがこちらを見ていた。タヌキはよく仕事帰りに暗い道路脇で車のライトにてらされて、目が光るのをよく見るが、昼間このように林道で見たのは初めてだった。冬を前にしてたくさん食べ脂肪(しぼう)をたくわえているのか今まで見たタヌキより大きく見えた。

そのタヌキを見ていると、遠くにも動くものが見えた。よく見てみると、そこにはオスのシカが2頭、こちらを見ていた。タヌキは僕とシカにはさまれるような形になり、行き場を失ったのか動こうともしなかった。時々、青く晴れた空に顔を上げ、気持ちよさそうに太陽を見るとまたじっとしていた。そうしているうちに僕もシカも動かないものだからタヌキも困ったのでしょう。ゆっくりと林道を横切り反対側の森へとすがたを消した。

それから僕は知床の山がよく見えるところへ行き、紅茶(こうちゃ)をわかしてパンを食べながら、真っ白につもった山をながめていた。僕は景色(けしき)の良い外で食事をするのが好きだ。北極の大学に通っていたころ、夏休みに友達の住んでいる村へ遊びに行くと、よく外でイヌイットの家族と共に夕食を食べた。家からあまり遠くない丘の上に鍋(なべ)を持って行き、たき火をしながらアザラシの肉が入ったスープを食べた。最初、なぜ家からあまりはなれていないのにわざわざ外で食事をするのか分からなかったので聞くと、返事(へんじ)は景色(けしき)がきれいだからとのことだった。とても意味が深いなあと思った。彼らイヌイットにとって住むところ、食べるところは昔から景色(けしき)のよいところを選んできたからだ。